2024.08.22
警戒区域外で起きた松山の土砂崩れ 専門家「指定基準見直しを」
松山城(松山市)が建つ城山の斜面が崩壊して3人が死亡した土砂崩れで、現場の一角は土砂災害警戒区域に指定されていなかった。国土交通省の担当者は「区域外での被害は全国でも発生しており、課題だと認識している」と説明。現地調査を行った愛媛大防災情報研究センター長のバンダリ・ネトラ・プラカシュ教授(地盤工学)は「全国にも類似する山がある可能性は高い。国や都道府県は指定基準の見直しを検討するべきだ」と訴える。
都道府県は土砂災害防止法に基づき、土石流▽地滑り▽急傾斜地崩壊――の危険性がある地域を土砂災害警戒区域に指定する。愛媛県の「えひめ土砂災害情報マップ」では、城山周辺は「急傾斜地」として土砂災害警戒区域に指定されているが、被害のあった住宅がある一角は指定の基準を満たしていないため、区域外となっている。
現場の住宅地には城山の急な山肌から流れ込む水を集める水路があった。土砂は城山の谷筋からこの水路に急激に流れ込んだとみられ、水路に隣接する民家が全壊して親子3人が亡くなった。国交省などによると、土石流の区域指定は都道府県が2万5000分の1地形図で「同一等高線上で幅よりも奥行きが長い『谷』」と判断できるかが条件となる。県は同地形図で「条件に当てはまらなかった」と説明する。
一方、現地調査を行った愛媛大の複数の有識者は、松山市の航空レーザー測量を引用して崩壊斜面の地形を「谷地形」などと指摘。土砂崩れ現場の地質は水を含みやすい砂岩で、大雨の影響で斜面の表土が崩れる「表層崩壊」が発生したとの見方も示している。
城山では、2010年7月にも豪雨による土砂崩れで観光名所「愚陀仏庵(ぐだぶつあん)」が倒壊するなど、今回とは別の場所で斜面崩壊が計4回発生している。同大の木村誇(たかし)助教(砂防学)は今回の斜面崩壊の現場について、城山にある同様の谷地形の中でも、特に大きい約3ヘクタール以上の集水面積があると指摘する。国交省によると、18年の西日本豪雨で人的被害のあった約7割がほぼ同じ規模の渓流だった。国交省の担当者は「危険区域を網羅的に把握するには一定の基準や条件で危険性が高い区域を優先的に割り出す必要性がある」と話す。一方で、土砂災害警戒区域外での災害は全国で約1割発生しているという。
ネトラ教授は近年、気候変動による集中豪雨の危険性が高まっているとして「三次元の航空レーザー測量など最新技術を駆使して判別するなど、国や都道府県は指定基準の見直しを考えるべきだ」と提唱する。土石流の警戒区域の指定基準に当てはまらない谷でも、住宅密集地が近い▽透水性が高い砂岩や真砂土(まさど)の地質▽(谷へと排水が注ぐ)人工物が上部にある――など「地形・地質上の特徴を考慮に入れるべきだ」と語る。松山城は国史跡のため法的な問題からスムーズに災害対策を打つことが難しい場所だとして「一般の山と同じ基準で危険度を測ったことが問題だったのではないか」と指摘する。
木村助教も、自治体は人家や公共・社会福祉施設などがある地区を優先して把握することを提案する。こうした施設などの把握は「周辺地域の開発や管理の基礎資料となる利点がある」と理由を述べる。
愛媛県は基準の見直しについて、有識者らによる技術検討委員会で「議論を深めたい」としている。【鶴見泰寿、山中宏之】
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松山市は21日、市内に発令していた避難指示(警戒レベル4)を全て解除した。
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