2025.01.27
樹木葬:逆転の発想で明るく楽しい“持続可能なお墓”を
年間150万人以上が亡くなる“多死社会”を迎えた日本。少子化が進み、墓を受け継ぐ担い手も減る中、生前に子や孫に負担をかけないようにと、永代供養付きの「樹木葬」を選ぶ人が増えているという。大阪、京都で樹木葬などを展開する「西鶴」の山本一郎代表に“持続可能なお墓”について聞いた。
西鶴は、元々ノベルティーグッズの販売を手がけていた山本代表が、大学時代に寺でアルバイトをした縁で墓地とかかわることになり、新規事業として1996年に設立した。だが、霊園というと暗く寂しく、段差ばかりで歩きにくく、トイレは薄暗く、陰気なイメージが付きまとっていることに気付き、山本代表は「これまでの常識をくつがえす“明るくてきれいで何度も通いたくなる霊園”をつくりたい」と決意した。
そこで新たな墓地の形として2004年、大阪府枚方市に「ハピネスパーク牧野霊園」を開設。霊園は、従来の和風の墓石ではなく、背の低い洋風の墓が並ぶ公園のようなものとなった。開設当初はなかなか申し込みがなく、厳しいスタートだったが、木々が成長して花が咲き誇るようになると人気が出てきたという。
市内に別の霊園を開設するなど規模を拡大させる中、2014年に同市の京阪奈墓地公園から霊園開発の相談があった。「広大な敷地があるものの、閑散としており、ほとんど人が訪れない場所でした。同じように立地の悪いのに人気がある霊園があり、それが樹木葬だった。そこで樹木葬専門の霊園をつくろうと思い立った」と振り返る。
山本代表は樹木葬専門霊園のシンボルとして、樹齢1000年を超えるオリーブを植えようと考えた。「オリーブは西欧で平和と繁栄のシンボルとされており、国連やWHOのシンボルマークにも使われています。オリンピックで金メダリストに送られる月桂樹もオリーブです。葉が落ちにくく、ほとんど水がなくとも生き続け、実がつき、食料になり、オイルにもなります。後世に命を継承していくシンボルツリーとして、オリーブの樹は最適」と語る。こうして2018年、樹木葬専門霊園「千年オリーブの森」がオープンした。
こうして常識を破る新たな霊園の開発に取り組んでいた山本代表の元には再生を依頼する霊園の経営者からの問い合わせが来るようになった。その中で大阪府和泉市の霊園から開発に協力してほしいとの依頼があった。工事も終わり開園間近だったが、改めて工事を行い、樹木葬専門霊園として再生した。
少子高齢化で「墓じまい」が社会課題となり、「終活」が一般化する中、「後々まで負担をかけたくないとか、見てくれる人がいないという悩みをよく聞く。また『大きい墓だと墓参りにも来てくれない』という思いもあって、「お墓は愛する人が眠っている場所なのに、暗くて怖いというイメージがある。それを変えてきれいで楽しい場所にすれば、お参りにも来てもらえる」と人気の理由を分析する。
その一環で霊園に古い京都市電の車両を設置し、参拝者の休憩スペースなどに活用している。「『イーハトーボの劇列車』という演劇を見て、死にゆく人に、駅員が“思い残し切符”を渡し、電車に乗り旅立つという内容で、電車は人と人の出会いと別れの場だということを知った。そこで使われなくなった電車を再生して、法要施設として活用しようと思いつきました。SDGsにもつながりますしね」と話す。修繕にはかなりのコストがかかったが、子供連れの家族にも好評で、参拝者の憩いの場所となっているという。
「モルタル職人と話して、ティラノサウルスの化石が発掘されたようなモルタルを作ってもらおうとしています。ジュラシックパークではないですが、お墓をテーマパークのようにできれば楽しくお墓参りをしてもらえる。『明るい公園のような環境で、墓石にお花もお供えできるのがうれしい』と利用者にも好評です」と笑顔で語り、山本代表は少子高齢化で深刻化する「お墓問題」を逆転の発想で解決しようとしている。