ソーシャルアクションラボ

2025.12.26

MOTTAINAIキャンペーン 20周年記念シンポジウム・前編 環境問題を心に訴える

 <リジェネラティブな世界を目指して MOTTAINAI20YEARS>

速い対策必要、まず行動を

 環境分野で初めてノーベル平和賞を受賞したケニアのワンガリ・マータイさん(1940~2011年)の提唱で始まり、毎日新聞社が推進してきた「MOTTAINAIキャンペーン」の活動20周年を記念したシンポジウムが今月22日、東京都豊島区の立教大池袋キャンパスで開かれた。人と自然が共生する「リジェネラティブな世界」を目指すことをテーマに掲げ、マータイさんの長女で世界資源研究所マネジングディレクターのワンジラ・マータイさんや、キャンペーンに賛同する企業の担当役員らが参加。環境問題への取り組みや「MOTTAINAI」という言葉を海外に浸透させることの重要性などについて意見を交わした。約250人が会場で聴講し、オンラインでも約300人が視聴した。【阿部周一、大野友嘉子、明珍美紀、桐野耕一】

 開会にあたり毎日新聞社の松木健社長に続いて立教大の石川淳統括副総長があいさつし、立教大の池袋キャンパスに来年4月、環境学部が開設されることを紹介。「大学そのもののあり方としても環境問題に取り組んでいきたい」と述べ、「このシンポジウムが知見を共有する場にとどまらず、次の行動や連携を生み出す契機になることを願っています」と語った。

 環境保護活動や著書の翻訳などでワンガリさんと親交があり、公務のためシンポジウムに参加できなかったブラジルのマリナ・シルバ環境・気候変動相と小池百合子東京都知事によるビデオメッセージが紹介され、会場に設置された大型スクリーンに映し出された。

 第1部のスペシャル・トーク・セッションには、ワンジラさんとタレントの山之内すずさん、立教大の二ノ宮リムさち教授が登壇。二ノ宮リム教授を進行役に、深刻化する気候変動に立ち向かう市民の行動の重要性などについて語り合った。

必要な全てが凝縮

 ワンジラさんは、母ワンガリさんが世界に広めた「MOTTAINAI」という言葉について、「リデュース(ごみ削減)、リユース(再利用)、リサイクル(再資源化)に加え、『感謝』や『尊敬』という意味もこめられた、私たちが必要とする全てを凝縮した言葉」と評した。

 山之内さんは幼少期からこの言葉が日常にあったと振り返り、「外で駆け回って洋服がぼろぼろになると、祖母がかわいいワッペンをたくさん付けて繕ってくれた。気づいたらワッペンの面積の方が布より広いんじゃないかというくらい」と思い出を紹介した。

 二ノ宮リム教授から「『MOTTAINAI』のように自然環境を大切にする精神は、世界の文化でどう共有されているか」と問われたワンジラさんは「多くの伝統的文化には資源や自然に対する畏敬(いけい)の念や知恵が必ずある」と指摘。「自然とは、神聖で守るべき、無駄にしてはならない場所であり、私たちがいかに結びついているかを理解できる大切なもの」と語った。

 さらに、ワンジラさんは気候変動の深刻化を挙げ、「今やるべきことは分かっていて、科学もそれを明確に示している。しかし、私たちの行動は十分でない。森林保護は今の10倍の速さが必要だし、化石燃料への依存は100倍の速さで減らす必要がある。真に必要なのはインスピレーション。もはや知識の問題ではなく、(いかに行動するかという)心の問題だ」と訴え、「『MOTTAINAI』という言葉はそのインスピレーションを与える、速くやらなければいけないとみんなに伝える言葉だ」と語った。

市民の力、社会変える

 セッションの後半では、若い世代などにいかに環境問題に対する関心を広げ、行動を促していけばいいかが話題の中心になった。

 山之内さんは、同級生とごみ拾いをした経験が、知識として学んでいた海洋プラスチックごみ問題と結びついた時に「『自分ごと』として急に身近に感じた」と振り返り、「『環境のために』も大切だけど、楽しい要素とかワクワクする部分があった方が取り組みやすい」と話した。

 環境教育が専門の二ノ宮リム教授は「一人一人の心がけも大切だが、社会が変わらないと無力感につながる。市民の行動が全体に広がっていくにはどうすればいいか」と問題提起。これに対し、ワンジラさんは「市民の力のみが社会を変えられる。例えば、ノルウェーでは新車販売の多くが電気自動車だといわれている。消費者が生産者にシグナルを送っている」と応じた。

 さらに続けて「市民の行動を一層加速させ、規模を広げるには、政治的なプロセスが必要になる。別に自分が立候補する必要はない。投票したり、政治について常に気にかけたりするだけでも非常に重要な参加になる」と呼び掛けた。

 最後に、ワンジラさんは「あなたがいるから私がいる」という意味の「ウブントゥ」という南アフリカ共和国の公用語の一つであるズールー語と、「共同作業の精神」を意味する「ムチラン」というブラジル先住民の言葉を紹介。どちらも「MOTTAINAI」に通じる言葉だとして「私たちは本当に一つの大きな家族だと思う」と締めくくり、拍手を浴びた。

主催   毎日新聞社

共催   立教大学

後援   環境省、東京都、国連広報センター

賛同企業 キリンホールディングス株式会社、株式会社UACJ、株式会社ローソン、伊藤忠テクノソリューションズ株式会社

協力   ホテル椿山荘東京

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