2026.01.02
避けるべき単語だらけに “気候変動”がアメリカを分断するまで
「1年前と同じ国とは思えない」。米ハワイ大で海の二酸化炭素(CO2)吸収の働きを研究する気候科学者、デービッド・ホー教授は嘆く。米国の科学者たちは今、連邦機関の研究費を獲得する申請書で、「気候」などトランプ政権が嫌う単語を避け、別の表現に言い換えるよう所属機関などから暗に促されている。政権が敵視するDEI(多様性、公平性、包摂性)と直接関係のない「生物多様性」という科学用語まで控える傾向にあるという。
2大政党制の米国では政権交代のたび、振り子のように政策が揺れ動く。気候変動問題は信条や価値観に基づく「文化戦争」の核心的な争点の一つで、科学的なコンセンサスとは別に政治対立の影響を受けやすい分野だ。トランプ政権は、民主党のバイデン前政権が進めた電気自動車(EV)や再生可能エネルギーの支援策の多くを打ち切り、工場や発電所の温室効果ガス排出規制の撤廃を視野に入れる。
かつては共和党政権下でも
超党派の支持を追い風に、環境政策が大きく前進した時期もあった。
共和党のニクソン政権は1970年代、環境問題を所管する行政機関として環境保護局(EPA)を新設し、大気浄化法改正など現在に通じる環境法制の枠組みを整えた。しかし、80年代に入ると「小さな政府」を掲げた共和党のレーガン政権の下で環境分野でもさまざまな規制緩和が進んだ。
地球温暖化に国際的な注目が集まった90年代以降、気候変動は環境問題という枠を超え、党派対立の象徴へと変質した。
オクラホマ州立大のライリー・ダンラップ教授(環境社会学)らの研究によれば、化石燃料産業や保守系シンクタンクなどは気候科学の「不確実性」を強調し、深刻さを疑わしくみせる組織的な反対運動を展開。同時期に台頭した保守系FOXニュースや右派のラジオトーク番組などが、気候変動に対する懐疑的な見方の「最大の増幅装置」となり、その後に登場したソーシャルメディアによって分断は修復が困難なまでに固定、深化した。
「気候科学をもっとうまく伝えれば人々が気候問題に関心を持ち、政府も対策に取り組むようになる、という単純な話ではない。情報源が断片化し、共有する事実そのものが一致しない」。一般向けの発信にも長年力を注いできたホー教授の目に、現実はそう映る。【ニューヨーク八田浩輔】
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