2026.11.01
国境の島の生態系守れ ツシマヤマネコに魅了された獣医師の挑戦
国境の島・長崎県対馬市。国の天然記念物「ツシマヤマネコ」の生息地として知られる場所で島の生態系を守る力になろうと、北九州市の獣医師が動物病院を兼ねた拠点作りを進めている。突き動かすのは20年以上前、絶滅危惧種の野生のツシマヤマネコと初めて引き合わせてくれた亡き男性の言葉だ。
美しさに魅了され
獣医師の外平(そとひら)友佳理さん(56)は2003年、NPO法人「ツシマヤマネコを守る会」の初代会長、山村辰美さんの案内で対馬の森を訪れ、ヤマネコの力強いまなざしと美しさに魅了された。
保護の力になれればと、当時勤めていた北九州市の動物園で写真展や講演会を開くようになった。対馬市内の小学校に出向き、命の尊さやヤマネコの現状を伝える授業もした。人目を避けて生息するヤマネコは、地元市民でも日常的に目にする機会が少なく、関心を持たれにくいと知ったからだ。
それでも守る会に参加する市民は減少が続いた。山村さんは外平さんに信頼を寄せ、「いつか対馬で動物病院を開いてほしい」と思いを託すように。その後、24年に80歳で亡くなった。
崩れる「ピラミッド」
環境省が4月に発表した生息状況調査などによると、生息数は最も深刻だった1990~2000年代前半から回復傾向にあり、現在約100頭いるとされる。ただ、市自然共生課の神宮周作係長(47)は「楽観はできない」と話す。
というのも近年、森林の荒廃が深刻だからだ。固有のシカ「ツシマジカ」が推定約4万~5万頭生息し、過度に植物を食い荒らすため、下層植生が衰退している。81年からシカの駆除が許可され、年間約8000頭に対処しているが、年間8000~1万頭が自然増加する状況で対応は追いついていない。
影響は森の植物を餌とする昆虫にも及ぶ。一例が固有のチョウ「ツシマウラボシシジミ」だ。幼虫の時に食べる草が失われ個体数が減少したため、市は13年に確認できたチョウ6匹を捕獲、保護し、個体群の消滅を回避している。
ヤマネコは下層植生に暮らすカエルやネズミ、昆虫類を食べる。植生の衰退は土壌の流出を招き、漁場など海洋環境にも影響する。神宮さんは「地域の自然を構成する雑草も適正に管理しなければ生態ピラミッドのバランスは保たれない」と話し、「対馬の生態系の悪化は、地球環境問題の縮図として学ぶことが多い」と語る。
月内に開院へ、CFも
外平さんは19年に動物園を辞め独立し、24年には福岡県糸島市で大型動物にも対応する診療所を開設した。この2年間で延べ1300もの生き物を診察し、若手獣医師や学生らへの講義や研修会も開いてきた。「人が集い、学ぶ拠点」の運営経験を重ねた今、山村さんが託してくれた期待に応えられる気がした。
26年9月、知人のつてで、対馬市厳原町に動物病院を開くテナントを借りた。ヤマネコは犬猫にかまれてケガをしたり感染症にかかったりして命を落とすケースもある。対馬には野良猫が約3000頭いるといい、まずは11月中に開院し、春の繁殖期を前に最小限の手術器具でできる野良猫の去勢手術から始める。「(病院は)対馬を知り、考え、語り合う場所。対馬の未来を守る担い手を増やしたい」と話す。
動物病院の開設費用に充てるため、700万円を目標にクラウドファンディング(CF)を呼びかけている。11月27日まで。詳細は外平さんのインスタグラム(@sotohira)で。【本多由梨枝】
関連記事
