ソーシャルアクションラボ

2023.03.12

「人を救えるまちづくり」 防災学ぶ愛媛・西予の小学生たち

 死者・行方不明者が2万人超に上った東日本大震災の発生から11日で12年。9月1日には関東大震災から100年を迎える。四国でも南海トラフ巨大地震の発生が懸念され、台風や記録的な大雨などによる災害の激甚化も著しい。2018年7月の西日本豪雨で肱川が氾濫し、5人が死亡した愛媛県西予市野村町地区では子どもたちが命やまちを守る大事さを日々、学び続けている。復興の道を力強く歩く小中学生らの姿から防災について見つめ直した。

 「特に大切と思ったのは近隣住民同士で助け合う共助。(高齢者や障害者、妊婦ら)要支援者を支えることで多くの人を救えるから」「また災害が起きた時に逃げ遅れる人がいないよう、地域で交流を深め助け合いたい」

 2月11日に野村町地区で開かれたまちづくりのワークショップ(WS)。市立野村小6年の代表の草田咲穂(さほ)さん、弓削杏奈さん、富本創介さんが、大学の教員や地域住民らを前に、丁寧に語りかけた。WSは、浸水被害の出た肱川沿いで復興のために整備する新たな空間について話し合う場。子どもたちの言葉は、地元の住民や大学教授らの心に強く響いた。

 6年生は1年間、「過去を学び災害の教訓を忘れず、皆で学び考え、よりすてきなまちを創る」をテーマに防災や減災について学んできた。西日本豪雨で被災した語り部に会い、災害の展示室を訪れた。秋以降は肱川沿いの空間のどこに防災倉庫を置くか、要支援者の逃げ遅れをどう防ぐかといった議論を続けてきた。人命を救えるかを左右しかねず、向き合うには大人でも覚悟がいるテーマだが、子どもたちは前向きに取り組んだ。WSの進行役を務める愛媛大学の松村暢彦教授(都市地域計画学)は「ひたすら明るく議論して決める大切さを、小学生の姿を見て学んだ」と述べた。

 草田さんは「高齢者たちを支えたい気持ちがどんどん大きくなっていった」と1年を振り返った。中学に進学しても防災を学び続けたいといい、「多くの人を支え、命を守りたい」と話す。被災地ならではの学びを経て、古里のこれからを思う気持ちが子どもたちの中で確実に芽生え始めている。

 野村小の授業で講師役も務める市復興支援室の井上一善さんは「子どもたちが真剣に考えてくれた提案を実現していくのが大人たちの責任。市もまい進したい」と力を込める。

交流会で広がりも

 学びの輪は被災地から広がり始めている。2月28日、松山市立味生(みぶ)第二小と野村小をオンラインでつなぎ、この1年の防災学習を発表し合う6年生同士の交流会が開かれた。「要支援者らの逃げ遅れゼロ」のテーマについて、野村小は近隣住民同士の助け合いを重視し、避難の呼びかけに応じてもらえる信頼関係を築くため「日常からあいさつをして、地域の行事に参加する」との意見を出した。味生第二小の児童から「自分たちにない新しいことに気付けた」との声も出るなど、互いの学びを知り防災への理解を深めていた。

 会を企画した愛媛大学の井上昌善准教授(社会科教育学)は「味生第二小の児童も要支援者への共感を大事に考えることができた」と評価。今後は「災害弱者に配慮した備えや取り組みを知ったうえで、改善点がないかを議論して探る授業も必要」と語る。

 被災地にある学校として野村小の果たす役割は大きい。味生第二小のような“非”被災地では「(災害は起こるものだという)実感を持ちにくいのが一番の課題」(井上准教授)だが、被災地の学校との交流はそのきっかけになる可能性を秘めている。加えて、「(被災地を)『悲惨で可哀そう』で終わらせず、被災地をどう支えるか、もう一歩踏み込んで考えてもらう工夫も重要」という。被災地の教訓を広く生かす教育とは。大人たちの模索も続く。【山中宏之】

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