ソーシャルアクションラボ

2023.07.26

赤ちゃん返りが止まらない|せんさいなぼくは、小学生になれないの?㉓

㉓2022年5月11日

せんさいなむすこには、いまの公立学校に、居場所はないのかもしれない。

子どもの主体性をカリキュラム的にもより大切にするオルタナティブスクールであれば、むすこでも通えたのだろうか。でも、オルタナティブスクールは身近な地域にはなく、入学前段階では、現実的な選択肢にはならなかった。できれば、身近な地域で、多様な人に触れながら育ってほしかった。オルタナティブスクールがあること自体は知っていたのに……などと、夫婦の悩みは尽きない。

平日の今日(5月12日)は、そんな思いもあって、近隣で有名なオルタナティブスクールを運営するNPO法人が主催した、里山での体験プログラムに参加することにしていた。

だが、むすこは、今日も行きしぶる。前日までは参加する意欲を見せていたが、朝になると、「行きたくない」となる。なんとか説得を試みようとするが、なかなかうまくいかない。結局、むりやり着替えさせそうになり、これでは本末転倒だなと思いとどまる。

なにがそんなにいやなんだろう?

「なにをやるのか分からなくて、不安なのかもしれない」と思い至り、里山でどんなことをするのかを動画で見せてみた。木工の様子などを見るうちに、むすこは安心していく。なにがなんでも行きたくないわけではないようで、不安が払拭されれば、心が落ち着いていくようだ

※後日、先行きの見通しがたたないことに不安が強く出る特性があることを知る。そういった子どもは、視覚的に説明すると理解しやすい。

これは行けそうだなと思ったので、「車で『おさるのジョージ』を見よう!」と大好きな動画を見ていいことにして、パジャマ姿のまま抱き抱えて車に乗せる。

納得したのか、暴れることはない。9時を少しまわったところで急いで出発。里山は、車で1時間ほどの距離にある。むすこは、「おさるのジョージ」を見てしばらくすると、寝始めた。ひと騒動だ。

とりあえず、この日は自分は最後までプログラムに付き添うことにして、妻はむすこが安心しているようであれば途中で抜けて仕事に行く、ということになった。

10時すぎに会場の里山ふもとにある公民館に到着。だが、むすこは着替えをして、車を降りるや、ずっとおんぶ。ほかの子たちの多くは、少し離れた駅から歩いてくることになっていた。早く着きすぎたので、駅のほうまで迎えに行く。だが、妻と自分でむすこを交代におんぶしながら、山道をゆくことになる。

合流して、集まった子どもたちは10人ほどになった。学校に行かない子もいれば、学校には通っているけど親が新しい教育のありかたに関心があって参加しているという子もいる。

おとなしい感じの子が多いが、よくしゃべる子もいる。人前で自己紹介できない子も多く、うちだけじゃないんだな、となんとなくほっとする。 そのあとは、里山の森のなかを散策することになった。だが、そのまえにマムシなどの毒ヘビ対策の話があり、怯えたむすこは、出かけられず妻とべったり。里山をのぼっていくほかの子たちを見送る。

しばらく公民館であそんでいると、みんな戻ってきて、おにごっこをしはじめる。むすこは、それにも参加しない。昼ごはんのけんちん汁の準備を子どもたちがすることになった。料理には、むすこは妻と参加し、自宅からもってきた人参を切っていた。

しばらく、妻にむすこの対応を任せて、持参した仕事の資料を別室で読む。ほかの子のお母さんが、ノートパソコンを開きながら、せわしなく電話をかけたりしていた。子どもが学校に行かなくても、仕事はつづく

13時すこし前に、昼ごはんができる。公民館の裏にある、そのNPOが作ったウッドデッキにみんな集合。小麦粉団子入りの野菜たっぷりけんちん汁と、持参したおにぎりを食べる。自分で作ったけんちん汁は気に入ったようで、おいしいおいしいと、ふだんは食べないなすなども食べていた

ご飯が終わると、妻が帰宅することになる。むすこは、「あと5分」「あとすこし」と引き延ばしていたが、しばらくして、「お母さんのかわり」と、妻が着ていた上着をもらうと、しぶしぶ納得して別れることができた。 その後も、自分にずっとべったりで、好きなはずの木工の工作も、パステルを使ったお絵描きも、「きょうはやらないわ」と、すべてあまりやらず過ご す。

あとで聞いたら、そもそも「見学」のつもりで、「木工は木が汚かったからやりたくなくなった」と言っていた(幼稚園で与えられていた材料より見劣りしてみえたようだ)。パステルは少しやりたそうだったが、先生が少しずつ近づいてきてくれたところで、時間切れ。

最後にあった振り返りの時間は、もちろん無言ですごす。だが、ほかの子の話す様子を見ていると、言葉にするのが得意ではない子がうちのむすこ以外にもちらほらいる。でも、そんな子でも作業の時間はたのしそうに集中して絵を描いていたりするので、感想が「ない」わけではもちろんない。そんな子たちがしゃべり出すのを、ここでは先生がじっくり待っている。そんな様子を見ていて、学校って言葉にするのに時間がかかる子には不利だよなあとも思う。

むすこは、あまり心を開ききれずに終わったかもしれないが、なにかを押しつけられるわけでもないので、ゆっくりと1日を過ごすことができた。

遠出してみてひとつわかったのが、いまは親が自分を置いていなくなることをつねに心配しているということだ。赤ちゃん返りとも見えるもろもろの行動の背景に、「親に置いていかれる不安」が強く、根強くあるのがわかってきた。

この不安を解きほぐしていくのが、われわれ親のまずやることだ。

【書き手】沢木ラクダ(さわき・らくだ) 異文化理解を主なテーマとする、ノンフィクションライター、編集者、絵本作家。出版社勤務を経て独立。小さな出版社を仲間と営む。ラクダ似の本好き&酒呑み。
【我が家の家族構成】むすこの父である筆者(執筆当時40歳)は、本づくりや取材執筆活動を行っている。取材や打ち合わせがなければ自宅で働き、料理以外の家事を主に担当。妻(40歳)は教育関係者。9時~17時に近い働き方で、職場に出勤することが多い。寡黙で優しい小1の長男(6歳)と、おしゃべりで陽気な保育園児の次男(3歳)の4人家族。