2023.04.24
性的マイノリティ公表の2人、愛知で議員初当選「誰もが生きやすく」
23日投開票された統一地方選後半戦では、愛知県でLGBTQなど性的少数者であることを公表して選挙に臨んだ当事者2人が初当選した。こうした議員は県内で初とみられる。選挙では、誰もが生きやすい社会を目指して声を上げた。あなたの町にも性的少数者は暮らしています――。
県南部に位置する人口約5万人の高浜市。市議選(定数14)が告示された16日、柴口征寛氏(53)は約50人の聴衆を前に語り始めた。
「私は今まで同性愛者であることを隠して生きてきました。しかし彼に出会い、オープンにすることの勇気を与えられました」
柴口氏の隣には、同性パートナーで台湾人の劉霊均(りゅうれいきん)氏(38)が寄り添った。
小学生の時に、自身がゲイであると自覚した柴口氏。差別や偏見がある中で「どう思われるか」との不安から、両親や友人、会社の同僚にも打ち明けたことはなかった。
2年前、パートナーの劉氏と出会い、考えが変わった。劉氏は大学の非常勤講師で、ゲイであることを公表しながら人権問題に取り組んできた。
昨年4月、高浜市で性的少数者のカップルを公的に認める「パートナーシップ宣誓制度」が始まり、2人はその第1号となった。これを機に、柴口氏はゲイであることを初めて周囲に公表した。
7期28年務めた共産市議の後継として出馬を決意したのは、公表してから約半年後。劉氏は、自身が差別を受けた経験から「同じつらい思いをさせたくない」と反対したが意思は変わらなかった。
昨年秋、愛知県議がネット交流サービス(SNS)で「同性婚なんて気持ち悪い」と投稿した。劉氏は謝罪を求める署名活動を展開する中で「気持ち悪いと言われている人はここにいて、戦っているんだ」と、柴口氏の出馬に理解を示すようになった。
街宣車には、多様な性を象徴するレインボーフラッグを掲げ、選挙ビラに「同性パートナーと同居」と明記した。そうした行動に否定的な声も一部で上がり、理由は不明だがポスターを燃やされる被害もあったが「不安を抱える性的少数者の人たちに希望を持ってほしい」とひるまなかった。
立候補した15人のうち12番目で当選した。23日夜、当選確実の一報を受けた柴口氏は「差別や偏見がなく暮らせる社会になるよう、その一歩として、議員として活動していきたい」と意気込んだ。
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愛知県春日井市議選(定数32)では、男性として生まれ、性別適合手術を受けて戸籍を女性に変えたトランスジェンダーの社民新人、小嶋さゆり氏(69)が初当選した。
「元男の子の小嶋さゆりです」。告示翌日の17日、小嶋氏は市内の商業施設前で、集まった支援者らを前に独居高齢者の見守りや働く女性活躍など議員として取り組みたい施策についてよどみなく話した。
50代後半まで違和感を抱きながらも男性として生きてきた。「LGBTQという言葉も知識も今より手に入りづらい時代。性別を変えるなんて夢にも思わなかった」。メディアを通して存在を知って初めて「そうだったのか」と思えた。
2012年に名古屋市で初開催された性的少数者への理解を広げる「レインボーパレード」にも参加。還暦を超えてからホルモン治療も始めた。
女性として生きていくことに、周囲は好意的だった。だが当事者らが交流できる場を開くなどの活動をしていると、SNSで「隣に住みたくない」と誹謗(ひぼう)中傷を受けることもあった。
「知らないから怖がったり、排除しようとしたりしてしまうのは当たり前。同じ街にも当事者が暮らしていると分かれば変わるのではないか」と政治家を志した。
立候補表明後も「女として議員になるなんて許せない」など自分へ向けられた批判をSNS上で目にしたが「反論し敵対すればかえって分断は深まる。理解を広める方向に持っていきたかった」と街頭に立ち続けた。
選挙には44人が立候補し、29番目で当選した。一夜明けた24日、小嶋氏は「誰もが生きづらさを感じない市にしていきたい」と抱負を語った。
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性的マイノリティーに関する政策提言などに取り組む一般社団法人「LGBT政策情報センター」の調査では、性的少数者であることを公表している議員は24日現在、愛知県の市議選で初当選した2人を含め、全国で15人に上る。
多様な社会へのステップ
同センター代表理事で同性愛者であることを公表している元衆院議員の尾辻かな子氏は「選挙において性的少数者であることがマイナスになる時代ではなくなった。多様な社会へのステップになる」と話す。
一方、尾辻氏は「当事者議員が増えてはいるが、波を起こすほどの数にはなっていない」と指摘。「議会、行政の中で性的少数者の存在が見えることで、政策課題の認識が容易になり、行政サービスの改善につながることもある」と当事者議員のさらなる増加に期待を寄せている。【酒井志帆、田中理知】
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