2023.06.21
世界遺産センター館長「富士山の存在感増した」 防災面では警鐘も
富士山の世界文化遺産登録10周年に合わせ、静岡県富士山世界遺産センター(富士宮市)の遠山敦子館長が記者会見を開き、これまでの取り組みを振り返るとともに将来への展望を語った。遠山館長は「富士山が日本の宝から世界の宝になったことで存在感が増した」とこの間の変化を評価する一方で、「噴火への恐れが防災の大きな動きにつながっていない」と警鐘を鳴らした。
同センターは2017年12月、富士山を保護、整備して将来世代に伝えるとともに学術調査機能も持つ施設として開設された。遠山館長は「世界遺産登録の前後で人間の感情や関心は大きく変わりつつあるが、現実の富士山は何の変化もなく厳然とそこにある」と話した。「白糸の滝や三保松原などの周辺が整備され、世界遺産の構成資産として誇れる姿になった」「富士山信仰の巡礼路や火山地質の調査が進んだほか、美術と富士山のかかわり、徳川家康や江戸幕府と富士山の関係についても知見が深まった」と多方面での変化や研究の進展を高く評価した。
噴火対策については「センターとしてハザードマップづくりなどはこれまでもこれからも精力的に取り組む」と決意を語った。同時に「いざ噴火すれば、一切の交通も経済活動もストップし、国全体の問題になる。火山学者だけでなく、国民意識としてどう取り組むか。みんなもっと本気にならなくてはならない」と呼びかけた。
世界遺産として注目が集まることで登山者、来訪者の過密が生む安全面や環境面の問題にも不安をのぞかせた。保全協力金として任意で徴収する入山料の在り方については平等の観点などから課題が残る。「強制徴収に一歩踏み出すのか、もっと良い方法があるのか、学術委員会などでよく勉強してほしい」と注文を付けた。
また、自動車による環境負荷を減らすことや観光の質を上げることを目的に、山梨県側で5合目までの登山鉄道敷設が提案されている。「幼いころから富士山を眺め、憧れてきたのが私の人生だ。『霊峰富士』が私の哲学なので、人間界の利益と結びつけるのではなく、美しさを保ったまま後世に伝えたい」と個人としての思いを訴えた。
遠山館長は静岡高校から東京大に進み、1962年に旧文部省入省。文化庁長官、文部科学相などを歴任した。富士山の世界遺産登録が決まった2013年のカンボジア・プノンペンでのユネスコ会議にはNPO法人「富士山を世界遺産にする国民会議」の理事長(当時)として出席した。【丹野恒一】
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