2023.07.20
第18回水害サミット 治水の主役は各自治体 流域全体での対策必須
水害を経験した全国の地方自治体のトップが対策などについて意見交換する「第18回水害サミット」(同実行委員会、毎日新聞社主催)が6月6日、東京都千代田区のパレスサイドビルで開かれた。第1部は「上流・中流・下流 それぞれの流域治水の取り組みについて」、第2部は「上流・中流・下流が連携した取り組みについて」をテーマに18道府県の25自治体(うち初参加は8自治体)の首長と斉藤鉄夫国土交通相・水循環政策担当相が参加、事例発表や熱心な質疑が交わされた。【コーディネーターは元村有希子・毎日新聞論説委員、構成・猪狩淳一、山内真弓】
◇開会のあいさつ
原田・日田市長 災害にさまざまな形で接し、災害に強い安全なまちづくりを目指して開催されてきたサミットは、18回目という歴史を積み重ねてきた。今回参加してもらった25の自治体と知恵を出し合いながら、災害に強い新たなまちづくりを進めていければと考える。
第1部では、鎌倉時代から林業経営に尽力されてきた田島山業の田島信太郎代表に、山林のあり方と災害について、第2部では、流域治水を効果的に進めていくうえで必要な上流域から下流域の自治体の関係づくりについて報告をお願いし、議論を進めていきたい。
◆第1部・上中下流それぞれの取り組み
◇にぎわいと防災を両立 北海道南富良野町
高橋町長 2016年の台風7号から四つの台風が北海道を通過し、総量888㍉という記録的な大雨となった。空知川とユクトラシュベツ川の二つの河川が氾濫し、市街地の3分の1が浸水し、住宅、商業施設、福祉施設などが甚大な被害を受けた。被災経験を踏まえ、水害タイムラインを作成。総合危機管理士資格を有する自衛隊OBを地域防災マネジャーとして配置し、地域の防災計画と強靱(きょうじん)化計画を一体的に運用し、北海道開発局と陸上自衛隊、消防、警察など関係機関も参加した訓練を毎年実施している。
過疎化や少子高齢化という課題も踏まえ、地域のレジリエンス(回復力)強化を図る必要がある。災害時に防災拠点となり、平時には地域のにぎわいの創出機能を併せ持つMIZBE(みずべ)ステーションを整備し、一体的な運営に取り組んでいきたいと考えている。十勝岳が30年周期で噴火を繰り返しており、どういう貢献ができるかという観点で地域強靱化計画をまとめている。ジャパン・レジリエンス・アワード国土強靱化地域計画賞大賞の受賞を励みに地域防災、強靭化を推進したい。
◇国県市で整備協議会 兵庫県西脇市
片山市長 2004年の台風23号で加古川の浸水被害を受けた。西脇市から上流は県、下流は国と管轄が別で、情報共有や事業の相互理解が困難だったが、姫路河川国道事務所が中心となり、県、加東市と共に加古川中流部河川整備推進協議会が設立された。 流す能力の向上のため、下流の加東市滝野地区で140軒の立ち退きに協力してもらい、築堤やしゅんせつを進めた。西脇市も一体的な工事を市民と情報共有するため、広報紙などで詳細や進捗を周知した。整備の結果、18年の大雨では、04年の1・6倍の雨が降ったが、浸水は97%減った。
また、地域で勉強会を開き、市民によるタイムラインの作成やため池の事前放流を実施している。農家には非常にリスキーな所もあるが、浸水被害を防げ、住民にも「自分たちでできる」ということを感じてもらっている。市内にはサントリーと50年間の契約を結んだ「天然水の森」が1056㌶あり、地域とともに森を守ってもらっている。
◇発災4カ月で対策策定 石川県小松市
宮橋市長 昨年8月の記録的な豪雨で、市内を流れる梯川の支川が氾濫し、被害があった。本川は国の国土強靱化の緊急対策で河川改修が進み、下流域での氾濫被害を防止することができた。 今後の緊急的な治水対策について早期に方針を示すように国、県に要望し、発災からわずか4カ月という早さで、梯川水系緊急治水対策プロジェクトが策定された。市としては、排水ポンプ場の増強や浸水被害軽減のための助成制度の創設、逃げ遅れゼロを目指すなどソフト対策に取り組んでいる。国交省の流域タイムラインに連動した市独自の水防タイムラインを作成し、5月から運用を開始し、地域防災計画改定の内容を含め、洪水ハザードマップの見直しも行っていく。
ハード整備については、昨年の大雨と同規模の洪水に対して氾濫を防止することを目的に、10年間で国県合わせて事業費約343億円をかけ、堤防や遊水地が整備される予定だ。その他、利水ダムの事前放流と同様に、木場潟での既存のポンプを使った事前排水の取り組みや、まちづくりにおいて立地適正化計画防災指針の検討を行っている。
◇調整池と堤防、一体整備 茨城県守谷市
松丸市長 常磐自動車道守谷サービスエリア周辺地域に着目して、新たなまちづくりを検討してきた。同地区は浸水想定区域でありながら、守谷市、常総市、取手市、つくばみらい市の圏内人口約28万人のゴミ処理施設や、市の下水道処理施設、民間企業もあり、治水対策は喫緊の課題だった。国も治水安全確保のため、調整池堤防整備事業を計画的に進めている。
守谷サービスエリアのスマートインター開設を契機に、隣接地域の区画整理事業と総合公園の新設を行う計画で、防災対策の観点から、既存の一般住宅の高台移転や浸水リスク軽減のため盛り土による敷地造成を行う。事業の土砂の取り扱いに着目し、調整池整備での掘削土を堤防整備や盛土材に使うなど流域治水事業とパッケージ化することで、各事業の時間やコストの効率化、周辺交通への影響軽減、CO2排出負荷の削減効果が期待できる。
また、調整池と堤防が早期に整備されれば、浸水リスクが大幅に削減され、市民生活の安定と産業立地による経済活力アップが同時に実現する。調整池は、グリーンインフラとしての活用も期待できる。
◇4年で25回の緊急会合 愛媛県西予市
管家市長 2018年の西日本豪雨で大きな被害を出した肱川の上流として何ができるかということで、流域の緊急対応タイムラインと水田貯留の田んぼダムの実証実験に取り組んでいる。
20年に肱川流域治水協議会を立ち上げ、流域治水プロジェクトを策定して、流域一体となってハード、ソフトでの取り組みを進めている。源流直下から田園地帯が広がっており、下流全域に効果がある水田貯留の検討を始めた。20戸の農家の協力で約47㌶の水田で実施している。農家にデメリットがないように配慮しており、参加者からは市内全域で実施すべきだとの意見があった。
肱川流域緊急対応タイムラインは、大洲市、内子町、西予市と、県、国土交通省四国地方整備局、松山地方気象台、警察、消防と連携を図り、19年度から試験的に運用を開始。台風の影響や早期注意情報などの発表があったとき、関係機関が危機感共有会議をオンラインで実施している。4年間でタイムラインを25回運用し、高齢者の避難開始など迷うことなく判断できた。タイムラインの効果を実感している。
◇「緑のダム」維持、官主体で 田島山業
田島信太郎代表取締役 田島山業は大分県日田市、筑後川の最上流にあり、1991年の台風では100㌶以上で木が倒れた。2020年7月には線状降水帯が発生し、電気やネット、携帯電話も全く使えず、都市部につながる道路も全滅。復旧には官民一体となって立ち向かうしかない。
森林には木材生産をはじめ、CO2の吸収など環境保全、水を蓄える「緑のダム」などの公益的機能があるが、収入が得られるのは林業の部分のみだ。木を植えてから切るまで50年以上かかり、その間も下刈りなど、延々とコストがかかる。補助金などを含めても完全に赤字で、再投資できず、伐採跡地での再造林は全国平均で30%しかできていない。
何世代もかけて育てるので、森そのものの新しい価値を見いだすことが非常に大切だと思い、田島〝山業〟として山でできることは何でもやってみようと、1200㌶の森を対象としたJクレジット(CO2の吸収量などを「クレジット=排出権」として認証する国の制度)などに取り組んでいるが、赤字から脱却できていない。
災害は官民一体となった取り組みが不可欠だが、林業の疲弊に加え、過疎化と高齢化で人材がいないなど非常に厳しい状況だ。平常時の維持管理も災害時の復旧作業も、すべて公的資金でやってもらうしかない。上流域は危機的状況であることを知ってほしい。
◇第1部・意見交換
前葉・津市長 (津市を流れる1級河川)雲出川は、国土交通省三重河川国道事務所で整備を進めている。「川の上・中流の山を守ることがいかに大切か」を実感している。田島社長に質問したい。災害が起きてしまったら公共が入り復旧に努めるが、「起きる前に何とかしたい」という話があった。森林整備について、行政がやることと、山業の会社がやることを、どう分担するべきか。
田島社長 公的な資金を使える国有林と、民間が資本主義の中で森を作っていくのとは、立場が違う。私たちは生きていくためにやっているので、どうにもならないことには手を出せない。民間である以上は、常識に従ってやるしかない。「追加投資できない」という状況でも木を植えるのは、私なりの常識だ。ただ、経営者の立場から言うと、会社が潰れるようなことはできない。森を守るために林業を黒字化するのは当然だと思う。民間ではビジネスの力で何とかしようとする。
うちは10人ぐらいの小さな会社だが、社員が食うために森をバカスカ切るんだったら、会社はない方がいい。民間としては限界なので、特に資金面はパブリックにお任せするしかない。
伊東・倉敷市長 倉敷市は、2018年7月の豪雨災害から今年の夏で5年になる。全国の皆さんに助けていただき、約9割が家に戻り、生活できる状況になった。倉敷市でも流域治水に取り組んでいる。(豪雨災害では)高梁川と小田川の合流点近くが決壊した。上流から下流までの自治体などが出水期前に集まり、上流のダムや民間、国や県のダムを含め、事前に放流してもらう、ということなどを話し合っている。
田んぼダムは、倉敷市でも新潟大学の先生の指導で活用している。また降雨時には川からの取水を止め、用水路の水をなるべく流して用水路に雨水をためている。市独自の条例で2000平方㍍以上の開発行為などを行う場合、市と協議し2000平方㍍につき50㌧の雨水をためてもらうなどの対策を講じることを規定した。現在約30件と協議し、店舗や事業所を作る場合に協力してもらっている。
須田・伊達市長 伊達市には、全国6位の長さを持つ阿武隈川が流れている。最下流にあるため、水害が多い。19年の東日本台風でも、伊達市では24時間雨量363㍉という過去最高の降雨量があり、河川が氾濫。1130棟の浸水被害があり、そのうち2階まで浸水したところを含め178棟が全壊だった。この際、青森河川国道事務所をはじめ、東北の五つの河川事務所から5台の排水ポンプ車の応援があり、排水作業をしていただいた。おかげで取り残された市民を救助でき、早期の復旧に着手できた。心から感謝を申し上げたい。
その教訓として、市では1分間に30㌧の排水ができるポンプ車を2台購入した。浸水のときにいち早く排水ができると、いち早く復旧でき、水位が低くなれば歩いて避難できる。(災害が起きた際に)他の被災自治体に応援に行くことも考えている。
また、大雨や河川氾濫のとき、浸水の状況を確認するのは難しい。そのため、国が進める「ワンコイン浸水センサ実証実験」に参加している。道路のアンダーパスや、19年の台風で被害を受けた公共施設(こども園)にセンサーをつけ、リアルタイムで面的に浸水の状況が把握できる。速やかに道路の通行止めや避難所開設、人員配置が可能になり、被害を最小限にとどめることができると期待している。
坂井・佐賀市長 佐賀城の堀の事前排水という取り組みを紹介したい。佐賀城は、別名「沈み城」と言われてきた。敵から侵攻されたときに、本丸以外を水没させ、侵攻を防ぐため、外周に堀を巡らせ、水と共存してきた歴史がある。佐賀市は低平地で有明海の干満差が6㍍あり、水がはけにくい地形的な特性がある。気候変動の時代に、既存の施設(堀)を活用することで、災害に強い町を目指している。 16年度に起伏堰を設け、9・1㌶ある佐賀城の堀を(大雨時の)調整池として活用し、余計に水をためている。
一方(堀は)農業が発達した下流域で農業用水として利用しているため、水位を下げることはこれまでできなかった。だが、水害サミットや国交省、整備局河川事務所の皆さんの取り組みのおかげで、流域治水の考え方が少しずつ広まり、理解が得られるようになった。そのため、今年度から事前排水が始まり、5万6000㌧の貯留容量を確保できた。市民のシンボル的な、観光資源としても活用されている佐賀城の堀の事前排水を通じ、流域治水という考え方を広く浸透させたい。
◆第2部・連携した取り組み
◇森を育て次世代に継承 岩手県岩手町
佐々木町長 岩手町は、東北で一番大きな川、北上川の最上流部に位置する。年間降水量が1000㍉を切り、降水量が少ないが、2010年7月にゲリラ豪雨を経験。北上川の支流の小さく細い横沢川が氾濫し、1集落が壊滅的なダメージを受けた。総被害額は29億円に上り、町史に残る大災害となった。
町の持続性を高めるため、森林や川を大切にし、北上川流域の交流に力を注いでいる。内閣府からSDGs未来都市に選定されたことを受け、同様に選定された自治体と交流を実施。「道の駅 石神の丘」のレストランで北上川河口の町、宮城県石巻市のヒラメを提供している。
昨年12月には石巻市で、東北地方整備局や流域自治体などと「未来の北上川流域を考える自治体連携会議」を共催。気候変動で激甚化する水害に流域全体で対応することに加え、北上川の自然や文化を生かした交流を掘り起こしていく。
官民連携の「美しい100年の森プロジェクト」では、森林の価値を発信している。森を育てることで地球温暖化の抑制、土砂災害の予防、生物多様性の維持・復元などにつなげる。子どもが森づくりに関わる機会を作り、次世代に森を継承する。北上川を基軸にしたつながりとまちづくりを大事にしていきたい。
◇田んぼダム整備を推進 新潟県見附市
稲田市長 2004年7月、見附市や周辺が大水害に見舞われた。刈谷田川が決壊し、各地で浸水。被害を教訓に、雨水貯留管や刈谷田川遊水地、田んぼダムの整備などを進めてきた。
田んぼダムは、田んぼの「水をためる能力」を利用。調整管などを設置して、排水口を小さくし、流出量を抑制。大雨時に一時的に水をため、河川への負担を減らす。新たな施設整備が不要で、見附市のように田んぼの面積が大きい地域では効果が期待できる。
刈谷田川と貝喰川は、信濃川に直接流れ込んでいる。刈谷田川は河川改修が進んだが、貝喰川流域は浸水を繰り返しており、流域で田んぼダムを広範囲で実施。土地改良区が一緒である三条市側とも連携した。
取り組みを進めるため、農家に負担をかけないようにした。調整管設置の初期費用は市が負担。設置や管理は、市が土地改良区の関連組織に委託。操作が不要で、営農への影響が少ない改良型の調整管を使った。
田んぼダムは、上流で取り組むと下流(の水害軽減)に効果があるとされる。一方で、短時間の降雨では、上流側に効果がある。農家との丁寧な合意形成が大切で、今後もハード、ソフト両面から水害対策に力を入れる。
◇第2部・意見交換
山下・伊豆の国市長 伊豆の国市は、狩野川の中流域にある。私たちの地域では、2019年の台風19号をきっかけに、一体となって流域治水に取り組んでいる。 台風19号では、床上浸水が300棟以上。狩野川本川の氾濫・越水・決壊はなく、放水路のおかげで持ちこたえたが、内水による甚大な被害があった。
被害を受け、関係市町で協議会を設けた。流域9市町で「狩野川中流域水災害対策プラン」を作成。22年度からは、国交省沼津河川国道事務所を中心に内水対策を検討する研究会を行っている。
林・朝倉市長 筑後川の中流域に位置する。17年7月の九州北部豪雨で、大きな被害を受けた。筑後川本川の水の調整を下筌ダムと松原ダムで実施。しかし、雨の降り方が激甚化し、それだけでは対応しきれない。筑後川の右岸側にある玖珠川の上流にダムができると、中流域下流域は非常にありがたい。
滝沢・三条市長 三条市には、日本一長い信濃川が流れている。上流の長野県では千曲川と呼ばれる。1月に「千曲川流域治水サミット」に参加し、三条市の取り組みを紹介した。その際、19年の台風19号で甚大な被害を受けた地域の被災現場も視察した。
上流(長野県)の大改修だけでなく、新潟県側(下流)も進めないと、下流域の治水安全度が下がるという。現在国交省が、信濃川の大河津分水(101年前に開通した人工の川)を改修している。上流域と下流域が互いに信頼し、情報を共有し、バランスよく改修していくことが、全体の安全度を高めると聞き、なるほどと思った。
野坂・川本町長 町は、江の川下流域の島根県の真ん中に位置する。下流域は地形上、できることは限られており、宅地のかさ上げと、防災集団移転を主力に取り組んでいる。
上流域では昨年の水害サミットで、広島県三次市長から事例発表があったが、貯留施設の計画がある。こうした取り組みにより、下流域への流出調整や抑制が図られていくことを期待している。
大鷹・日高町長 日高町は、飛び地合併している。北海道を南北に流れる沙流川は、上流が日高町、中流が隣町、下流はまた日高町、最後は太平洋に注いでいる。
最近は、台風が勢いの衰えないままで北海道にくる。住民個々が「マイ・タイムライン」をどのように作っていくか。(スマホの)アプリもあるが、住民の積極的な取り組みをいかに誘導していくかが課題だ。
佐藤・中山町長 今年は「ワンコイン浸水センサ」の設置に取り組む。田んぼダムもはじめた。現場を視察に行ったら、除草剤をまいた畦畔が弱くなっていた。田んぼダムが満水になったときに崩れてしまうような状態だった。
小松・武雄市長 19年と21年の大水害を受け、国、県、流域市町村長で流域治水プロジェクトを進めている。連携とは、仲良し・お人よしクラブではない。武雄市は(六角川)上流だが、上流と下流で役割が違う。上流は水をしっかりためる。下流は海にしっかり流す。流域全体の被害を減らすために、それぞれの強みを生かすことが連携だ。
3月に九州で初めて、六角川が特定都市河川に指定された。土地の利用規制がかかる一方、大規模な調整池が国の援助で可能になるので、今まで以上に(水を)ためられる。九州でモデルとなるような事業を進めたい。
大塚・直方市長 水は高いところから低いところに流れる。自治体間で意思疎通し、事業調整することが大事。22市町村で構成する「遠賀川流域リーダーサミット」を隔年で開き、流域治水について議論を進めている。河川敷ではサイクリングロードの整備が進んでいる。治水だけでなく、イベントを共同で実施するなど、さまざまな形で行うことが重要。大雨のとき、下流部にゴミが集まることが、リーダーサミットで問題提起され、流域市町村でゴミ(処分)の費用を負担することにつながった。
表原・阿南市長 6月の台風2号で被害にあった。水の流れが利益相反につながることがある。例えば、ある農業用水に調整樋門がついていて、そこを20㌢開けるのか、30㌢開けるのか――。上流域では水はけが良くなるが、下流域では最終的に漁港に流れていく。流しすぎると停泊している船が転覆しかねない。オペレーションが難しい。利害を可視化し、その上で折り合いをつけ、合意形成できる流域治水プロジェクトを目指す必要がある。
北川・名張市長 三重県は、大阪湾に流れる淀川流域になる。流域の協議会に参加しているが、それぞれ抱えている課題について情報を共有し、住民同士でつながりが持てるような形も必要だ。
須田・伊達市長 国交省で「阿武隈川緊急治水対策プロジェクト」を実施。上流の三つの町村で遊水地などを整備しているが、その恩恵は下流が受ける。下流域である伊達市では道の駅で上流側の特産物のフェアを行い、パネルで(治水の取り組みを)紹介。住民同士で理解し合うことが重要。
国土交通省水管理・国土保全局・岡村次郎局長 気候変動の影響で水害が激甚化、頻発化する中で、流域治水にしっかり取り組む必要がある。市町村長の皆さんが主役。それぞれの位置から流域全体を見据え、役割を果たしていくことを意識しなければいけない。
被害を少しでも減らすという意味で、自助共助も重要。一人一人が災害に備え、適切な行動をとること、声を掛け合うことが大切。新潟県村上市では、五十数年前に大水害(羽越水害)があり、その経験を伝承し、訓練を続けてきた。昨年8月、村上市で災害(豪雨水害)があったが、声を掛け合って避難し、人的被害はなかった。そういった人と人のつながりも含め、さまざまな観点で流域治水を進めたい。市町村長の皆さんが情報共有し、すてきな取り組みについて理解し、横展開をすることは有意義だ。国交省でも連携を図りたい。
◇閉会のあいさつ
白岩・南陽市長 今回の議論で流域治水について非常に重要な視点が示されたと思う。山形県では2020年に最上川が氾濫し、甚大な被害を受けた。その後、山形河川国道事務所が、上流から下流まで229㌔ある最上川のそれぞれの市町村が行っている取り組みを地図上に一覧化して、理解を促進し、互いの取り組みに資するようにした。そうした「見える化」も進めていきながら、上流中流下流がやるべきことについてもう一度整理し、市町村も国や県と一緒になって、治水をさらに進化させていかなければいけないと感じた。
◇あらゆる関係者協働で 斉藤鉄夫国土交通相・水循環政策担当相
昨年8月の大雨や台風14号、15号により、全国各地で甚大な水害が発生した。今年も台風2号と前線の活動の活発化により史上記録を塗り替えるような雨量があった。気候変動の影響により、激甚化、頻発化する水害に対応するため、流域の上流から下流まで、あらゆる関係者が協働して治水対策を行う流域治水の取り組みを強力に推進することが重要になる。そのような中、流域治水、上流中流下流の水害対策と相互理解というテーマで、流域治水の現場の最前線で取り組んでいる市町村長の経験と知恵が全国に発信されることは大変有意義で、国土交通行政にしっかりと反映していきたい。
また気象業務法と水防法の一部が改正され、国土交通省が本川支川の水位を一体で予測し、バックウオーター現象も考慮した水位情報を都道府県に提供する仕組みを構築した。これにより、都道府県では新たに洪水予防河川の指定を進めることが容易になるとともに、より早く洪水予報を発表し、早めの防災対応と避難行動を促すことが可能となった。国土交通省としても市町村長をあらゆる場面でサポートしていきたい。
◇課題に直面する自治体 元村有希子・毎日新聞論説委員
ウクライナ南部のダムが爆破された――とのニュースに怒りを覚えた。浸水域は東京23区の面積に匹敵するという。「そのうち水は引く」との楽観的な見方もあるが、そんな簡単な話ではない。
西日本豪雨による被災地を訪ねたときのことを思い出す。水が引いた住宅地を歩いた。家屋には地震や土砂災害のように目立った損壊はない。「住民の皆さんはいつ戻ってくるのですか?」と尋ねると、「どの家も天井まで水につかり、現状では住めません」と説明された。不明を恥じた。停電、断水、家財の被害、避難生活が及ぼす心身への影響など水害は平穏な日常を奪う。
流域全体で被害を減らす「流域治水」は実践の段階に入っている。今回、自治体がさまざまな課題に直面している現実が浮かんだ。上流、中流、下流それぞれに利害があり、「きれいごと」では済まない。複数の自治体や都道府県にまたがっていることも調整を難しくする。全員が幸せになる道はないかもしれないが、不幸な人を1人でも減らすための模索は続けたい。
困難な現実を打開する住民主体の取り組みも多く紹介された。それぞれの自治体で生かされることを願っている。
◇参加18道府県25自治体の首長
大鷹千秋・北海道日高町長
高橋秀樹・北海道南富良野町長
佐々木光司・岩手県岩手町長
白岩孝夫・山形県南陽市長
佐藤俊晴・山形県中山町長
須田博行・福島県伊達市長
松丸修久・茨城県守谷市長
早川尚秀・栃木県足利市長
滝沢亮・新潟県三条市長
稲田亮・新潟県見附市長
宮橋勝栄・石川県小松市長
山下正行・静岡県伊豆の国市長
前葉泰幸・津市長
北川裕之・三重県名張市長
関貫久仁郎・兵庫県豊岡市長
片山象三・兵庫県西脇市長
野坂一弥・島根県川本町長
伊東香織・岡山県倉敷市長
表原立磨・徳島県阿南市長
管家一夫・愛媛県西予市長
大塚進弘・福岡県直方市長
林裕二・福岡県朝倉市長
坂井英隆・佐賀市長
小松政・佐賀県武雄市長
原田啓介・大分県日田市長
<自治体以外の参加者>
国土交通省=斉藤鉄夫国交相・水循環政策担当相
岡村次郎水管理・国土保全局長(肩書はサミット当日)
田島山業=田島信太郎代表取締役
毎日新聞社=元村有希子論説委員
※水害サミットは、公益財団法人河川財団の河川基金の助成を受けて開催された。