ソーシャルアクションラボ

2023.09.20

はじめての「保活」、行きついたのはうす暗いマンションの一室|保活日記③

自宅から通いやすい園をピックアップしたところ、認可保育園が15件、認可外保育園が5件。リストを作っていざ、保育園見学です。

持ち点「42点」での横並び状態を打破するために考えた作戦は、「まず認可外保育園に預けて復職し、その後、認可保育園に転園する」というものでした(よろしければ前回の投稿をごらんください)。認可外保育園に預けて復職をした、という実績があれば、改めて認可保育園に申し込む際には1点多い43点が持ち点となるためです。これですんなりいくだろうと高をくくっていました。

ところがそうはうまくいきません。
実際に各保育園に問い合わせを始めると、認可外保育園でもすでに定員が埋まっている園ばかり。出鼻をくじかれます。
認可保育園も、狙いを定めた1歳児クラスの空きは2、3人というという厳しい現実。0人という園もありました。兄姉がいる子はそれだけで3点の加算となるため、弟妹の子たちで定員が埋まってしまうことも考えられます。

リストにあげた保育園が次々と斜線で消されていきました。空きなんてどこにもなくて、結局は保育園には入れないのではないか。そんな焦りが募りました。

それだけではありません。選択肢は絞られていくというのに、自分の目や耳を使って情報収集し始めると「きちんとした園を選びたい」という思いがむくむくと強くなっていったのです。

保活を始めるまでは「子どもが安心して過ごせる保育園で十分」、そんな漠然とした考えしか頭にありませんでした。入れるだけでありがたい、えり好みはできない――と。それなのに、園ごとの違いが見えてくると、あれもこれも見過ごせないポイントなのではないかと不安になっていきました。

例えば安全対策。
0歳、1歳であれば、手に届くものは何でも触って口に入れてしまいますよね。誤飲や転落の心配は尽きません。寝ている間だって乳児突然死症候群(SIDS)や窒息で亡くなることもあるといいます。

アレルギーを持つ子どもへの配慮の程度、お昼寝中の呼吸の確認頻度、はたまた指をはさまぬようドアにカバーをつけているかどうか――などなど、安全対策の程度は園ごとに幅がありました。どの程度の対策であれば安心して息子を預けられるのか。自分のなかに明確な基準がないことに気づかされました。

保育方針も園ごとにさまざまでした。
見学に行くと「自由保育」と「設定保育」ということばをよく耳にしました。「自由保育」は子どもの自主性にまかせ、のびのびと遊ぶことだそうです。室内ではおもちゃを自由に選んで遊び、園庭や公園でもそれぞれが好きな遊びをします。一方、「設定保育」はみんなで一緒に課題に取り組みます。テーマを決めて絵を描いたり、みんなで歌ったり、といった具合です。

わたしは「自由保育の方が好きかな」と思いつつ、実際に見に行くと「自由保育」の様子が、放置に近い、と思えるような園もありました。「保育」という言葉をひとつ取ってみても、何を大切にするのか、どんな働きかけを子どもにしていくのか。その取捨選択の背景には園それぞれの価値観がありました。

同じ保活をするママたちと話をすると、その時は「みんな悩みは同じだ」と安心するのですが、帰宅すると「あんなにちゃんとしたママさんと限られた入園枠を争うなんて。うちが入園できるわけない」と悲嘆することもしばしばでした。

次々とリストから消されていく保育園。園選びの軸足も定まらないまま、「行き詰まりそう……」そう思い始めたころ。リストの下から2つ目の認可外保育園が0歳児を1人だけ募集していたことを知りました。

市が作成した一覧表をもとに見学を進めていたのですが、この園は厚生労働省が定めた基準を満たした園への証明書(※)を交付されていなかったため、問い合わせや見学は後回しにしていたのでした。(※正式には「認可外保育施設指導監督基準を満たす旨の証明書」 といい、県が交付します)

さっそく夫と長男と見学に出かけました。そこはちょっとうす暗い、マンションの一室でした。

今振り返ると、このときは「こうあるべきだ」という理念や「こうしてあげたい」という理想に振り回されていました。次回の最終回では空まわるこうした思いが、落ち着いていった過程について触れたいと思います。(連載全8回)

市川保活日記 公開予定日

【書き手】石井遥。新聞社で、著作権関係の業務を担当している2児の母です。毎晩元気がありあまっている「恐竜」(3歳)に食べられそうになるため、睡眠不足。0歳のちぎりぱん(むちむちの腕)をさわり、癒やされながら、日々子育てしています。
暮らしている千葉県市川市でお気に入りの場所は、京成線の踏切。子どもが見たがるので踏切巡りをしていたら、いつのまにか自分もどっぷりはまってスカイライナーの通過を楽しみにしています。
※連載は、2021~2022年に執筆しました。