2024.02.01
子どもが休む理由、休まない理由|こたえは森のなか~森のピッコロようちえんの冒険❹
先日こんなことがあった。ピッコロ保護者で国内・海外への出張が多く、あまり自宅へ戻れないお父様がいた。その日しばらくぶりにお父様がご自宅にいられる日があった。なので息子さんはピッコロを欠席した。お父さんと1日一緒にいられただろう。よかったと思った。
私はそのことを朝の会で子どもたちに話した。話したというか、子どもたちは大好きな仲間が欠席だとその理由を聞きたがる。気になるということだ。人ごとにはしていない。
すると年長児こはく君が言った。「そんなことで休まない方がいい」。私が「え、どうしてかな」と聞くと、「せっかくピッコロに入ったのだから」と言う。「熱なら(休んでも)いい」とも言うのだ。自分が会いたいからそう言っているのではない。
なるほどね〜と思って聞いていると、年長児ゆいちゃんが言った。「でもさ、お父さんかわいそうだよ、会えなくて」。こはく君と反対意見ということだ。すると年長児あー君も言った。「でもさぁ、来た方がいいと思う」。いろいろな意見が飛び交った。
年長児いしん君は「休んでいいと思う。だってさ〜、1年に一回しか会えないんだよ」と言った。いつのまにか七夕の話と混ざってしまうこともある(笑)。
私はこの話し合いで「いろいろな意見があることは当たり前だ」ということを子どもたちに伝えたかった。休む理由も休まない理由も、どちらもいいと思ったからだ。
散々みんなの意見が出た後に私は言った。「そうだね、来た方がいいと思っている人と休んでいいと思っている人がいるのだね」。と、この話はここで終わりのはずだった。
するとゆいちゃんが言ったのだ。「自分で決めたからいいと思う」と。これは休むか休まないかは本人が決めたのだから、そこを尊重するということだ。
私はびっくりした。この話は個人の自由という話だったのか!「そ、そうだよね」
と私が言うと、こはく君がまた言った。「そうだよ。自分が休むのはわかっているよ、でも休まない方がいいと思う」と。これは休む休まないを決める個人の自由は認めている。それは本人が決めればいい。けれど僕は友だちとして休む理由に対して自分の考えがあり、それを伝えた、と言っているのだ。
ゲ、そんなことまでわかるのか。ゆいちゃんが「自分で決めたことだからいいと思う」と言った時、その場にいた誰もに「うんうん」「それはそうだ」という空気が流れた。もちろん彼らは幼児なので、ビッコロへ登園できるかできないかは保護者の意向による。私はこの場が「自分のことは自分で決める」ということが大前提にあり、その決定は他の誰にも侵されず、その上で彼らが自分の意見を言っていたということに驚いたのだ。
ドイツ発祥で現在オランダで広がっているイエナプランという教育方法がある。個人的に今、注目しているのだが、先日動画で見た。その学校の先生がインタビューを受けていた。「教育者として何が一番大事だと思いますか」。その先生はこう答えた。
「自分が自分自身であること」。それを聞いた時私はどっと涙があふれてしまった。指導がうまいとか、知識があるとかそんなことではない。もちろん自分が思った通りやればいいというわがままな考えとは全く違う。
私は大学で「保育は人間性です」と習った。この言葉に近いと感じた。女性だからこう言う、教育者だからこうした、母だからこう思う。私たちはいろいろな立場で生きている。それも踏まえ、その立場とは別に「自分が自分自身であること」。それが子どもの前に立つ教育者にとって一番大事なことだと言っていると聞こえたのだ。そうだと思った。
この10年間、子どもたちはその「中島自身」の部分だけを見ているような気がしてきたからだ。もちろんそれをするには教育者本人が自分の内面を見なければならない。
私は自分を見てきたのだろうか。その言葉はエゴから出たのではないか、いい加減に流しているのではないか、と日々自分の内面を見られているのだろうか。そして今まで、教育がそれをしてこなかったから多くの人は自分探しの旅に出かけるのだろうか。その辺のことを考えるとよくわからなくなる。
しかし子どもは自分で休むということを決め、それに対しての自分の意見を持ち、自分の内面も見ている。このコラムの題「こたえは森のなか」、そして私は答えは自分の中にしかないと思うのだ。
山梨県の子育て応援フリーペーパー「ちびっこぷれす」から掲載。
写真は、すべて加々美吉憲編集長撮影。
【書き手】中島久美子。幼児教育家。「森のピッコロようちえん」代表。東京・横浜・山梨県内の幼稚園・保育園に勤務後「時間に追われることなく、子どもと向き合う保育をしたい」と、「ピッコロ」をお母さんたちと立ち上げる。
小学館雑誌「3、4、5歳児の保育」(2010年2月号の第45回「わたしの保育」)において、保育での出来事を綴った「動物の死」が大賞受賞。地球元気村特別講師。2021年にドキュメンタリー映画「Life ライフ~ピッコロと森のかみさま」が公開された。保育のモットーは「一人一人を丁寧に。流さない保育」。
【中島久美子先生が執筆したコラムが書籍化されたことを受け開催
「森のピッコロ物語 信じて待つ保育」(2023年10月発売)」刊行記念トークショー & 映画上映会】八ヶ岳のふもと、森のピッコロようちえんの日常を描くドキュメンタリー映画「life ライフ~ピッコロと森のかみさま~」の上映と、「森のピッコロ物語 信じて待つ保育」の著者であり、「森のピッコロようちえん」中島 久美子先生のお話で構成します。
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●開催日時 2024年4月6日(土) 14時~16時30分
●会場 東京都北区・北とぴあ(ドームホール) 〒114-8503 東京都北区王子1-11-1
【MAP】https://www.hokutopia.jp/access/
●定員 150人
●参加費 3,500円(映画視聴・書籍代。書籍持参の場合は、1,500円)
※会場でお支払いください
●主催 中村堂
●詳細は http://nakadoh.com/?p=5271
●お申し込みは、https://bit.ly/nakadoh
【視察のご案内】
自然の中で生き生きと過ごす子どもたち。自分の頭で考えて、自分で決める子を育てる保育。子どものすごさを肌で感じられる機会です。保育関係者、教育に関わる会社の方や先生方、子育て中の方、研究者や学生など、幅広い方々からご参加いただいています。
【次々回日程 2/16(金)】
※詳細、お申込みは「森のピッコロようちえんHP」よりお願いいたします。
コマロンをはじめた山内(2児の母・新聞記者)の、心に残った言葉
休む理由も休まない理由も、どちらもいいと思ったからだ。
「いろいろな意見があることは当たり前だ」
「自分が自分自身であること」。それが子どもの前に立つ教育者にとって一番大事
「休むこと」は、だめなこと、ではない――。そんな価値観が広まっても、いざ、我が子が学校など、「行くべき」と思われきた場所に「行かない」と言ったら、やっぱりとまどう。仕事をしていたら、なおさら学童や保育園に行ってくれないと、困る。でも、そんなときも、彼なりの「行きたくない」「行けない」理由に耳を傾けたい。
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ピッコロの子どもたちは、仲間が休むことを「人ごと」にはしていない。「自分」を持って主張するだけでなく、相手の意見にも耳を傾ける。それぞれの意見を安心して口にできるから、多様な考えが飛び交う。「自分が自分自身であること」を大切にしている中島先生も目の前にいる。だから、「ピッコロを休んで、出張の多いお父さんと一日一緒に過ごすこと」も選べるのだろう。