ソーシャルアクションラボ

2024.02.07

自分の呼称は自分で決める 留学で知る米国のジェンダー新常識

 私は、大学の交換留学制度を使って昨年8月から米国のミシガン州のウエスタンミシガン大学に留学している。新入生オリエンテーションで意気投合した同州出身の18歳の友人との出会いから感じた、当地のジェンダーの考え方について書きたいと思う。

自分で考えた名前を使う友

 大学の周辺は性的少数者(LGBTQ+)について関心のある人が多く、キャンパス内の寮には「スペクトラムハウス」という、あらゆる性自認や性的指向を持つ学生が一緒に生活し、学ぶことができるスペースがある。キャンパス外でも、性的少数者の尊厳と社会運動を象徴するレインボーフラッグを飾っている店が多く建ち並ぶ。

 執筆のきっかけになった友人はLGBTQ+であることを公表している。容姿は女性だが、「彼女」を示す三人称「she/her」を使ってほしくないという。また自己紹介する際は女性らしい本名ではなく、18歳の時に自分で考えたという「ジェスパー」を使っている。

 ジェスパーが大学に入学する前まで両親と一緒に住んでいた大学から少し離れた地域では、ジェンダー問題に関心のある人は少ないそうだ。両親は、我が子がLGBTQ+であることを認識しているが認めているわけではなく、ジェスパーは地元よりも大学の方が居心地がいいと話していた。

代名詞は自分で決める

 このような学生がいる中、大学ではセレモニーなどの場で自己紹介する際、「pronouns」を聞き手に伝えることがマナーになっている。pronounsとは、他者が自分について語る時に使ってほしい三人称の代名詞のことだ。英語には、he/sheという男女の性別で区別される三人称があるため、LGBTQ+の人々の中には容姿とは異なる表現を好む人がいる。また中には、自分は男女の枠組みのどちらにも属さないので「they」を使うよう求める人もいる。ジェスパーもその一人だ。

 こうした自己紹介の仕方は、私は日本で聞いたことがない。個人主義の文化が色濃く、LGBTQ+について否定にせよ肯定にせよ、明確な意見を持つ人が多い国だからこその新しい文化であると考える。この自己紹介をする人を目の当たりにして、当地の人々は自分のありのままを認識してほしいという気持ちが強いことがわかった。日本にいては気づけなかった発見だ。

日本では「当たり前」でなくても

 日本でも若者を中心にジェンダー問題に関心を持つ人は増えているが、日本語では英語のように性を特定する三人称を多用しない。ただインスタグラムのように、世界共通で幅広く使用されているSNS(ネット交流サービス)ではプロフィル欄にpronounsを追加することができる。言葉でpronounsを表明することは難しくても、このような手段を用いて性別にとらわれない自分の呼称を設けることは可能だと考える。

 日本を離れて日本にはない取り組みを間近にすると、今まで「当たり前」と思っていたことが壊され、視野の広がった新たな「当たり前」が形作られる。【米国ミシガンで村脇さち】

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