2024.02.10
ルーツ越え開かれた街へ 移住夫婦が技能実習生アンケ 高知
ルーツに関係なく、だれもが自由に集える場所を――。高知県土佐市に夫婦で移住した阿部航太さん(37)と児玉美香さん(38)が、地元で働く技能実習生と地域の交流をテーマに活動している。今月中旬以降、市内に借りた場所で食事会などを始める予定だ。
2人は2021年の結婚を機に移住を検討。それまで航太さんは東京でデザイン関係の仕事を、美香さんは愛知県でアートプロジェクトやまちづくりの仕事に携わっていた。土佐市が「外国からの技能実習生と地域住民との交流づくり」というテーマで地域おこし協力隊員を募集しているのを知って応募し、22年3月に移住、同4月から活動を始めた。
2人が赴任前に立てた目標は「まちなかにさまざまなルーツを持つ人たちが集って交流できる『拠点』をつくる」。具体的には、日本語学習支援▽地域の中高生向けのデザインの学校▽イベントやワークショップができる開かれた空間――という複数の機能を持つ場所だ。「世界各国さまざまなバックグラウンドを持つ人が集い、一つの惑星のような場になってほしい」との思いを込め、この計画を「わくせいプロジェクト」と名付けた。
まず関係者に「取材」
まず、実習生がどんな暮らしをして、何を必要としているかが分からないと交流はできない。だが、取り組もうとすると壁があった。「そもそも、実習生とどうやって出会えばいいのかが分からなかった」
そこで、まず2人が始めたのは関係者への“取材”だった。実習生を日本で受け入れる市内2カ所の「監理団体」を訪ね、受け入れに当たっての注意点や工夫などを教えてもらった。実際の実習生の仕事ぶりや課題などを学ぶため、実習を実施している4カ所の農家や企業にも出向いた。県外の団体や施設も4カ所訪問し、外国人支援の取り組みを聞いた。
土佐市のデータによると、23年5月現在、同市在住の外国人は393人。このうち技能実習生は165人、即戦力の人材と位置付けられる特定技能は87人の計252人。政府の統計(同6月現在)によると、国籍別ではベトナムが168人と最も多く、インドネシア78人、中国58人と続く。
2人は1年以上の準備を経て、市の事業として本格的な実習生への聞き取りに着手。高知大学に協力を依頼し、計29項目を尋ねるアンケートをベトナム語とインドネシア語で作成した。郵送での回答は難しいと判断し、対面で聞き取ることにした。詳しい関係者や知り合いなどのつてをたどって紹介してもらい、23年7月から24年1月にかけて123人から回答を得た。
質問項目は、滞在年数や職場の場所などの基本情報以外に、日ごろ買い物をする場所や休日の過ごし方、友人との連絡方法や地元でやってみたいことなども盛り込んだ。「高知県で大きな地震が予測されているのを知っていますか?」といった防災知識についても聞いた。
実際に話を聞いてみると、「スポーツをやりたい」「地域の祭りに参加したい」という声が予想以上に多かった。2人は「地域のスポーツ団体につなぐことができるし、祭りへの参加は地域にとってもいい話だと思う」と話し、今後の交流に活用したい考えだ。
プロジェクトの第一歩として、今月中旬以降、同市中心部に借りた一戸建てで食事会や交流会などを開く。来春の本格オープン後は、仕事を終えた後でも足を運べるよう週3、4日は夜間も開放する予定だ。また、近所では手に入りにくい外国人向けの食材をそろえる「多国籍スーパーマーケット」を設ける計画もある。「実習生だけでなく、地元に住む人にとっても新たな食の体験になれば」と考えている。
「土佐市から新しい文化を」
2人が目指すのは、ルーツの違う人たちが当たり前に街で楽しく暮らす社会だ。そんな開かれたまちづくりは地域に新しい風を呼ぶと信じている。都市部と比較するのではなく「土佐市からまったく新しい文化を創って発信するのが目標です」
2人は、アンケート結果について3月に市が主催するシンポジウム「“ここ”からみえる“世界”」で報告する予定。シンポでは、調査のアドバイザーを務めた岩佐和幸・高知大教授や、野球の独立リーグ、四国アイランドリーグプラスの「高知ファイティングドッグス」で国際交流を担当しているインドネシア出身のキエル・イェヘスキエルさんらも加わって、多文化共生をテーマにパネルディスカッションをする。同市の複合文化施設「つなーで」で3月3日午後1時15分から。入場無料。【小林理】
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