ソーシャルアクションラボ

2018.06.08

中学生が作ったリアルな「いじめ映画」


 小学4年~中学3年生が制作した映画を対象にした第2回「日本こども映画コンクール」(主催=毎日映画社、毎日新聞社など)のグランプリに選ばれたのは、島根県出雲市立浜山中放送部の作品「届かない声」だった。中学校でのいじめをリアルに追求した作品だ。応募総数158本の中から賞に輝いたのは8作品。このうち2作が子どもの視点からいじめを描いた内容だった。「届かない声」で中学生は何を伝えたかったのか。そこには、大人には見えないリアルないじめの実態があった。【西村隆】

・ラストシーンに込めた思い

・「いじめ」体験を脚本化

・大人たちは「ハッピーエンド」を求めた

 「届かない声」は、陰湿な嫌がらせを受ける女子生徒の姿と、いじめをなくそうと奮闘する転校生の姿が描かれる9分のドラマだ。しかし、ハッピーエンドではない。学校はいじめを把握し、教師も含めて全員で解決したはずの教室に、不穏な雰囲気が漂ったままラストシーンを迎える。しかもエンドクレジットは「To be continued」。もやもやしたすっきりしないラストは、さわやかさのかけらもない。

◇「自殺は病気や事故ではない。防げるはずだ」

 脚本を書いたのは、放送部長の長島紗子さん(3年)。長島さん自身が、凄惨(せいさん)ないじめに遭う主人公を演じている。「届かない声」には、放送部以外の生徒もエキストラとして出演している。さすがに、いじめられる役をエキストラに頼みづらく、部長自身が演じることにした。

 長島さんはこう話す。

 「保健の授業で、いじめが中学生の死因の上位にあると知り、心に残っていました。病気や事故で命を落とすことは、神様が決めた運命かもしれません。しかし、自殺はそうではないと思います。いつかいじめを作品にしたいと思っていました。コンクールへの参加を決めたとき、作ろうと決意しました」

◇「大人は『ハッピーエンドがいい』と言った」

 学校を挙げて先生もいじめに取り組んだ後の教室。見た人は誰もが、いじめをなくすために奮闘した転校生といじめていたグループの仲直りの場面をラストシーンに期待する。しかし……。

 再び、長島さんに登場願おう。

 「脚本では、いじめが解決して仲良くなるハッピーエンドと、自殺してしまうバッドエンドのに両方を用意していました。顧問の先生や校長先生からは、ハッピーエンドがいいのではと言われました。親からは『せっかくだからきれいに終わったら』と言われました。しかし、ハッピーエンドではどうしても腑(ふ)に落ちない。そこで脚本を変えて、どちらでもないラストシーンにしました」

 そのラストシーンが、ハッピーエンド直前に、不気味ないじめが再び頭をもたげ、「To be continued」と続くプロットだ。

◇「本当のいじめは終わりなどない」

 長島さんはラストシーンにこだわった理由を「本当のいじめは終わりなどありません。ハッピーエンドは物語の中だけです。それを伝えたかった」と言い切った。

 映画は長島さんら、放送部員のいじめられた経験が反映されている。ユニークな放送部員は、とかくいじめの対象になりやすいという。

 長島さんは小学3、4年生で、いじめに遭った。本人は「いじめというよりいじりと言った方が正確かもしれません」と振り返る。

 そのころ絵本の「こびとづかん」が子どもたちの間で流行していた。長島さんは、「こびとは本当にいる。見たことがある」と、ついうそをついてしまった。小学生にありがちな、たわいないうそだ。

 クラスメートは毎日、朝礼と終礼の時間に「こびといるんだろう。こびとを見せろ」となじるようになった。中学生や大人から見ると、深刻ないじめというより、悪ふざけの延長の「いじり」とも受け取れる内容だ。

 しかし、本人にとっては重大だった。そして深刻さを増していく。「そこまで言うなら、こびとを見せるよ」と、友人を家に呼んだこともあった。もちろんいるはずもない。「あれ、いたのに、いないなあ」と、またうそを重ね自分を追いつめてしまう。

 「ちょうど、毎日のようにSTAP細胞がうそだったニュースが大きく報じられていました。自分の姿を重ねました。4年生の後半に、これではだめだと勇気を振り絞り、部活の前にみんなを呼んで、『やっぱりこびとはいなかったけん。ごめんなさい』と告白しました」

◇「1人でもいい、誰か声をかけて」

 いじめる側は「いじり」のつもりでも、受ける側にはいじめだった。長島さんは当時、ノートに心境をつづっていた。「周りが気づいてくれない」「親に話したら迷惑がかかるので話せない」……。そのノートが、今回の映画にリアリティーを加えることになる。

 長島さんは「仲良くしましょうとか、助けましょうとか、できないことを言うつもりはありません」と話す。大人が求める「仲良くする」と「助ける」は現実には起きない。だから大人が求めるハッピーエンドにはしたくなかったのだろう。

 「それでもできることはあります。1人でもいいので周りの誰かが声をかけてほしい。ただ話しかけるだけで、いじめられている人は落ち着きます」

◇ラストシーンの仕掛け

 ラストシーンの授業風景の端に一瞬、いじめられ役の長島さんが映り込む。何を思って演技をしていたのか。

「それは皆さんで続きを考えてください」

 「日本こども映画コンクール」は毎日映画社と毎日新聞社が主催し、今回が2回目。2017年1月から12月までに制作された、10分以内の作品が対象だ。

 2018年2月に発表された上位8作品の中に、小中それぞれのいじめをテーマにした作品が入った。「届かない声」と、特別賞(セガサミーグループ賞)の横浜国立大学教育学部付属鎌倉小学校6年2組チームBの「ミサンガの絆」だ。

日本こども映画コンクール入賞作品はこちら