2018.07.23
学校の「指導しました」は信用できるのか 保護者インタビュー
- 「指導」はけんか両成敗
- 何度も学校と直談判
- 加害者の親にも「解決」求め
桜が満開に咲き誇る暖かい昼時、埼玉県内の喫茶店で記者は女性と向き合っていた。「学校任せにしてはいけない、親が動かないと」。公立小学校に長男を通わせる40代の女性は我が子がいじめられていた当時を振り返り始めた。【鷲頭彰子】
(写真はイメージで本文とは全く関係ありません)
◇色とりどりのあざ 「転んだ」と説明
2年前、長男が4年生のころのことです。4月から体中に色とりどりのあざを作って帰ってました。本人は「転んだ」と話し、「こうやって転んだんだよ」と実演までしてみせてくれたんです。はっきりいじめられてると分かったのは7月です。「いじめられているって聞いたよ。大丈夫?」と仲良くしていた同級生の母親に尋ねられました。長男を問い詰めると、やっと「休み時間に蹴られる。蹴り返すと更に蹴られ、逃げると1人が押さえつけまた蹴られる」と口を割りました。長男によると、主にいじめていたのは男児2人。2人は長男以外に別の児童A君もターゲットにしていたそうです。女児もつねる、蹴るなどのいじめに加わるようになったということです。
◇担任は新任教師
長男の担任は新任教師。隣のクラスの担任の学年主任も同席し、いじめられていることを相談しました。担任らからは「学校を挙げて指導します」との威勢のいい答えが返ってきたので頼もしく感じました。その「指導」を長男に聞いたところ、こんなものでしたーー「ゲームの自慢をしたから蹴った」と主張するいじめた男児と長男に、担任と学年主任は両者を謝らせた。長男は「ゲームの自慢をしてごめんね」。男児は「蹴ってごめんね」。お互い「いいよ」と言って握手して終わった。
これで「解決」とは幼稚園や保育園みたいでしょう。実はその頃、私が相談する前に担任は長男が蹴られているのを見つけ、止めていたことを聞きました。その時も同じように両者の謝罪だったそうです。「蹴ったから」という男児の主張を長男が否定しても、担任は「知らない間に蹴ったんじゃないの? お互いに謝ろう」と言ったそうです。
◇管理職同席で話し合い
学校側の「指導しました」には不信感が募りました。そこで同じようにいじめられていたA君の父母にも連絡し、夫とA君の父母と共に学校に乗り込みました。同時に、いじめた側の保護者にも連絡し、直接話し合うこともしました。学校での話し合いには今回、校長、教頭も同席。解決済みとなっていたA君へのいじめが依然続いていることも伝えると、2人は驚き、学年アンケート調査を実施することを約束しました。
アンケート調査には。長男とA君へのいじめが出てきました。学校は名前が出てきたいじめた児童一人一人を呼び出し、事情を聴き、指導をしたそうです。しかし、指導されたはずの男児は、A君の学用品をゴミ箱に捨て、それを拾っているA君を「ばい菌」扱いするなどしていたと両親から聞きました。A君が捨てられた学用品を拾い集めているのをたまたま通りかかった養護教諭が見つけ、校長に報告。また一人一人呼び出し事情を聴かれたそうです。
◇加害者女児との対話
複数の男児はいじめを認め、親とともに謝りに来ました。最後まで認めなかったのが女児です。禁じ手だったかもしれないけれど、私は女児に会いに行きました。「長男が学校でいじめられているみたいだけど、何か知らない?」と質問すると、女児は「(長男が)たたいたりしているんだよ。私もやられた。でも、私は口で言うだけでやり返さないよ。それでもやめないなら先生に言う」とあどけなく答えました。「あなたが私の子どもをつねったのを見たという子がいるんだけど」と水を向けてみると、しばらく黙り、「私、違う子に似てるってよく言われるの。その子じゃない?」との返事が返ってきました。
◇教頭が直接聞き取りへ
夏休み前、アンケート結果を基に、父母、校長、教頭らが集まり2回目の話し合いがありました。私は女児とのやりとりを伝え、「ちゃんと指導したとは思えない」と問い詰めました。黙る学校側に、「どういった聞き取りをしているのか。同伴させてほしい」と要求しました。学校側は「それはできない」と拒否しましたが、これからの事情聴取は教頭が行い、児童にどう話し、児童がどう答えたかを一言一句伝えるということになりました。 教頭が直接聞き取り調査と指導をするようになり、その内容を1週間ほど毎日連絡して来るようになりました。教頭先生から聞いた説明では、女児の名前が出てくるアンケート用紙全てに付箋を貼り付け、その束を見せても、女児はいじめを否定したとのことです。「つねる」とはどういうことかを教頭が実演したうえで、「つねったように見えたかもしれないことはない? さわったこともない?」と質問しても「ないです」と全て否定しました。「君だけのアンケートを取り直してもいいよ」と言っても、「いいです」と答えたそうです。教頭先生は女児の母親にも連絡しましたが、「仕事が忙しくて学校に行けない。家に来られても困る」と反応はほとんどなし。「これ以上はできません」と教頭も頭を抱えていました。
◇加害者の親の無関心
私は何度もアプローチして、ようやくファミリーレストランで女児の母と話す機会を持てました。「あの子は何でも話してくれる良い子。それは悪かった。帰ったら話してみます。でも、うちも去年ぞうきんを投げられてケガしたことあるけど……。言ったもん勝ちなのね。何か分かったら連絡します」と言ったきり連絡はありませんでした。
とはいえ、女児のAへのいじめは止まりました。学年が一つ上がった翌年、私は「女児からいじめられている」という別の児童の話をその子の母親から聞きました。その児童は先生にも友達にも見られないように耳元でささやかれるそうです。「死ね」と。
親子で一緒に謝っている家の子はその後、悪いうわさは聞きません。学校の指導だけでは十分ではなく、やっぱり親がしっかり教え諭さないといけないと強く感じます。
◇【ご意見ください】親のできることは?
【記者より】母親はこれまでのいじめの対応を見て、新人の担任や学年主任の力量に疑問を持っていた。その母親が挙げたいじめ解決への決め手は、教頭自らが対処を全部やることになった時点だった。「女児が反省していないということを私が確認して、指摘したことにより、管理職自らが指導に当たった」と振り返った。指導方法に言及する、指導者の変更を求めるーー。親の動き方に正解はない。「1人で騒いでいる」と陰口をたたかれたり、「モンスターペアレント」と批判されたりするリスクも負っている。皆さんは我が子がいじめられていると分かったとき、どんなことができると思いますか?
【親の行動を考えるアーカイブ】
マスコミ報道はたいてい事件事故が起こってからスタートする。いじめに関する記事では、自殺後に被害者の親が教育委員会に調査を求めたり、訴訟を起こしたりする記事は多々あるが、現在進行形のいじめについて、親の動きを伝える記事はあまり見かけない。
数少ない中、次の記事からは、親が懸命に動いたであろうことがうかがえる。
●いじめ:中1男子、転校 複数生徒から嫌がらせ 札幌の私立校
https://mainichi.jp/articles/20151117/ddr/041/040/005000c
●いじめ:「いじめで抜毛、調査を」 知的障害の中3、母が請求 宮崎
●いじめ:学校机に「しね」 女児の両親、人権救済を申請 山口
https://mainichi.jp/articles/20170127/ddm/041/040/113000c
転校した後に、学校を提訴した記事もある。
●損害賠償:いじめで転校 明徳義塾高元サッカー部員、提訴へ
https://mainichi.jp/articles/20150120/ddn/012/040/033000c
保護者としてどうすればいいかを相談した人生相談のコーナー。
●人生相談:いじめに学校が対応しない=回答者・高橋源一郎
https://mainichi.jp/articles/20161107/ddm/013/070/046000c
●避けられる死:八北いじめ自殺3年 「時効」なき親の葛藤 揺れる心…訴訟の道、選ばず /青森
https://mainichi.jp/articles/20170705/ddl/k02/040/054000c
では、「加害生徒たちに反省がない限り『心からの謝罪』は聞けない」と記され、一読に値する。
いじめで不登校になり、苦しむ我が子を見守り続けた母のことを紹介した記事
●いじめの周辺/いつかきっといいことが
https://mainichi.jp/articles/20180410/org/00m/040/026000d
もぜひ読んでほしい記事だ。
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【いじめを哲学するアーカイブ】
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