ソーシャルアクションラボ

2018.08.23

尾木直樹インタビュー「いじめ被害の兆候は、ここに表れる」

 いじめを苦にして子どもが自らの命を絶つ事件が続く。こんな日本の状況はどう考えても異常としか思えない、と尾木直樹・法政大特任教授は憤る。子育てに悩む母親たちに温かく時には厳しく寄り添う「尾木ママ」に、まずいじめをどう見つけるかを聞いた。【聞き手・谷道健太】

  • いやがるのに「いじり」を続けていると「いじめ」になる
  • 男子は「助けて」と言えない。小さな陰湿さを見抜いて止めさせる
  • 大人の目が届きにくい「LINEいじめ」は過激化しやすい

おぎ・なおき 1947年滋賀県生まれ。早稲田大卒業後、中学、高校で22年間、大学で22年間、合計44年間教壇に立つ。現在は教育評論家、法政大学特任教授、臨床教育研究所「虹」所長。民放番組に出演時、女性っぽい言葉を使うおネエキャラに注目した司会の明石家さんまさんが「尾木ママ」とネーミングし、広まった。

◇ジャンケンでいつもカバン持ちはおかしい

――いじめはある日、突然始まるのですか。それとも兆候があるのですか。

尾木ママ 突然はあり得ません。いじめには100%と言っていいほど兆候があります。最初は子ども同士の「いじり」「からかい」から始まります。その段階では、いじられている子どもは人権侵害を受けていると感じていないかもしれません。いじられたり、からかわれたりすることで自分の存在が認められていると思う。喜んでいるようにみえることすらあります。しかしある時、いじられている子が嫌がり始めたのにもかかわらず、執拗(しつよう)にいじりやからかいが続き、急に悪化したりする。「いじり」が「いじめ」に変わる瞬間です。

 こんな兆候もあります。力関係が違う子ども同士が一見、遊びのようなことをしているケースです。明らかに体が大きくてけんか早そうな子どもとおとなしそうな子どもがプロレスごっこをしている。下校中に「ジャンケンして負けたやつがみんなのかばんを電柱3本分持つ」というゲームをしている。

 先生はその段階で気を付けないといけない。プロレスごっこを5回目撃して5回とも同じ子が下敷きになっていたら、対等なプロレスごっこではありません。ジャンケンによるカバン持ちゲームで、いつも同じ子がカバンを持っていたら、ほとんどの場合、いじめです。「なんであの子がいつもカバンを持たされているの?」と聞いて、「あいつはジャンケンでいつも負けるから」という返事だったからと見過ごしてはいけません。いじめっ子は勝つまでジャンケンをすることがよくあるのです。

 従って、小さな陰湿さ、不合理を見抜くことが重要です。先生が見抜けないと、いじめられている子どもは「気付いてくれたけれど助けてくれなかった」と、失望感を膨らませてしまいます。

ーー大津市で2011年、中学2年生の男子生徒がいじめを苦に自殺した事件がありました。事件後、同市の第三者調査委員会のメンバーとして事実関係を調べましたね。(委員会の報告書は同市のサイトで閲覧可能)

尾木ママ 自殺した中2の男子生徒は毎日のようにヘッドロックをかけられていました。男子生徒は「大丈夫です」と担任の先生に笑って答えていたそうです。私は第三者委で「担任がいじめを見過ごした」と主張しました。思春期の男子生徒はプライドが高く、「先生、助けて」なんて言えるわけがないのです。担任はいじめた側の子どもに対し、「先生は君たちのプロレスごっこを見たのは3回目だけれど、3回とも君が馬乗りになっていたね。それはフェアじゃないよ」と指導して、なんとしてもその段階でやめさせるべきだった。これはいじめに対する「感度」の問題なのです。

◇子どもにとっては衝撃的 LINEはずし

――親は、子どもがいじめられているのをどう見つければいいのでしょうか。

尾木ママ いじめが以前と大きく変わっていることを知る必要があります。昔は「学生服に足跡が付いていた」「ランドセルに落書きがあった」「ノートに『死ね』と書いてあった」など、目に見えるいじめが主で、暴言や悪口にしてもある程度は可視化できていた。もちろんこうしたいじめは今もあります。例えば、2016年には、原発事故の影響で福島県から横浜市に避難していた子どもに対する「いじめ」事件が発覚しました。同級生から「賠償金があるだろう」と1カ月間で約150万円も脅し取られていたひどいいじめでした。

 今のいじめの大きな特徴は90%ぐらいがスマートフォンの中で起きていることです。代表的なのが、無料通信アプリ「LINE(ライン)」で悪口を言ったり、中傷したり、いじめ動画や合成写真などを拡散したりするLINEいじめです。LINEは、教室で起きるいじめと違って教師や親の目が届きにくい。顔と顔を合わせず文字やスタンプによるやりとりなので、面と向かって言えないようなことも集団心理が働いてより過激になりやすい。

 一人だけグループから外すLINEいじめもあります。これはとても簡単です。6人でLINEのグループを作ってみんなで「トーク」(やりとり)していたのに、ある時、「あれ? みんな全然反応しなくなった」となる。一人だけ外して他の5人で新しいグループを作り、わいわいやり取りしている。はずされた子どもにとっては衝撃です

 また、いじめを苦にして命を絶つ子は、以前はノートなどに直筆でいじめを書き残していましたが、今は多く報道されているとおり、ほとんどがスマホに遺書やメッセージを残しています。親は亡くなった子どものスマホを見て、初めて「うちの子いじめられていたんだ」となる。

 いじめの本質や苦しさ、犯罪性は今も昔も何も変わっていませんが、いじめが起きる場が昔とはすっかり変わりました。いじめの証拠はスマホの中に入っているから外から見えない。親が積極的に探ろうとしない限り分かりません。

◇いじめっ子は家庭内で必ず変化がある

――では親は子どものスマホを見るべきですか。

尾木ママ それは違います。子どもにもプライバシーがあります。だから難しい。しかし、子どもがいじめられていることを察知する方法はあります。子どもとスマホの距離に敏感になることです。トイレでもお風呂でも肌身離さずスマホを持ち歩いていた子が、ある時気付いたらリビングルームに置きっぱなしにしている。朝ご飯の時もスマホを気にしていた子どもが、うつ向いて黙々と食べている。そういう時は「もしかして、いじめられているからスマホを見たくないのかも」と考えましょう。

 子どものスマホとの付き合い方が変化したら、8、9割はいじめの被害に遭っていると思ったほうがいいですね。そのような時、親は「スマホを見せなさい」と管理的に上から目線で命令してはいけません。「どうしたの? このごろスマホを見ないね。何か嫌なことでもあるの?」と、子どもの心にすっと潜り込むようにつらい気持ちを下支えし、状況打開のためにサポートする姿勢が大事です。

――親は我が子が他の子どもをいじめているかどうかもスマホとの距離で分かりますか。

尾木ママ スマホとの距離だけでは分かりにくい。ただ、これまでの経験上、いじめをしている子は学校だけでなく家でも粗暴になり、態度が大きくなるはずです。反抗的というのとはちょっと違う。やさしさがなくなったり、我が強くなったりわがままになったりする。家庭生活の中で必ず変化があるので、いじめとの関係を思い浮かべ見逃さないようにしましょう。

<提案します>今からできる三つのアクション

1 子ども同士の「いじり」「からかい」を観察する

2 「スマホを見せなさい」と上から目線で言わない

3 子どもとスマホとの距離の変化に敏感になる

みなさま、尾木ママの「子どものスマホは見るべきではない」との意見、どう思いますか。

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