2018.08.23
レモンさんことラジオDJ山本シュウさんインタビュー「心の現場検証3つの極意」
・親や先生には相談できない。「We are シンセキ!」で近所のおっちゃん、おばちゃんの出番だ
・君の命はみんなの大切な命。苦しかったら「誰か助けて」と声をあげる権利がある
・三つの極意は「聴く」「確認」「同調する」。昭和のICチップはNG
「僕が学校に行って先生と話そうか?」。レモンさんことラジオDJ山本シュウさん(54)は、長年、ラジオで子どものいじめ相談にものってきた。「あなたの命は僕にとっても大切な命。だから、僕でよかったら聴かせてほしい」と新聞紙上で自らのメールアドレスを公開したこともある。レモンさんが今、どうしても伝えたいことはーー。【山田道子】
[略歴]
やまもと・しゅう 1964年大阪府生まれ。30歳でDJデビュー。2008 ~15年、TBSラジオ「全国こども電話相談室・リアル!」 を担当。現在はNHK・Eテレみんなのためのバリアフリー・バラエティー「バリバラ」の司会や、大きなレモンのかぶりものをして「レモンさん」というキャラクターで講演活動をしている。朝日新聞の連載「いじめられている君へ」(2012年) で載せたメー ルアドレスには500~600通のメールが全国から寄せられ、 約半年かかって返事を出した。
◇子どもが相談できない親とは…
いじめ相談をしている現場の感覚で言うと、キーワードは「We are シンセキ!」。僕は長屋に生まれ、近所のおせっかいで育てられたのはラッキーだった 。そこで思うのは、「人を孤独にさせてはいけない!」ということ。 小学生や中学生というのは世界がものすごく狭くて、学校、家、公園や児童館など。 いじめを相談できるのは家族、先生、友だちぐらいでしょう。家族といっても、子どもは「相談して親には心配をかけたくない」 とか、「自分がいじめられていることを知らせたら、親が傷つく」「親にがっかりされる」 と考えてしまうこともある。
世間的に立派だと思われている親ほど、 子どもを気づかないうちに追い込んでしまうことがあるので要注意! 過去の経験でぶっちゃけ言うと、政治家、医者、弁護士、教師、僧侶、自衛官、 警察官といった“しっかりした人”や“偉い人”は自分の人生に自信を持っていて、 子どもはこうあらねばならん!と鋳型にはめようとする。すると子どもは親の体裁を考え、いじめを相談できないという子が実際いるのです。
◇昔の長屋にあった“おせっかい”が命を救う
先生は忙しいし、友だちは見て見ぬふりをする。 そうすると家にも学校にも自 分を守ってくれる人はいないんだと、まっ暗闇で、自ら命を絶つ子どももいる。「死ぬ 気があったら何でもできるだろう!」という言葉は全くずれている。今のつらくて、とてつもなくしんどい現状から、早く抜け出したいから逃げる!というより、死後の世界があるとか、生まれ変わる世界とか、次の世界の扉を開けて、前に進んで行く!という、ある種、本人にとっては、決してネガティブではなく、非常にポジティブな感覚で、この世を去っていこうとする子もいるのです。
その時に救いになるのが「We are シンセキ!」という認識です! 周囲に誰か一人でも味方になってくれる人、寄り添ってくれる人が見つかったら、子どもはサバイバルで きる可能性が出てくる。 かつてお父ちゃんにしかられて家を飛び出しても、近所 のおっちゃんや、長屋のおばちゃんが声をかけてくれた。「 お父ちゃん、仕方ない なあ。わしから言ってあげるよ」とか。子どもは、 自分の存在を大切に思ってく れている人がいるんだと自覚できると、 がんばろうかなあと思えるようになる。
それは、ネット長屋でも構わないのです! だから、大人たちは「We are シンセキ!」の感覚で周囲の子どもに接し てほしい。いじめられている子どもは勿論だが、いじめをしてしまう子どもの心こそ、叫び声を上げている証拠。その心を見つけることこそ、いじめの予防にもなる。今日いじめられている子ども、明日死にたいと思っている子どもを、どうサバイバルさせてあげられるか。 そのキーワードが 「We are シンセキ!」。子どもはみんなの子ども! 社会の管理者であり、責任者である!という意識を持てて、初めて大人になれると思う。もし今日、どこかで子どもが死んだら、大人全員が責任を感じ、痛みを感じられていないと、あなたの家族も、子どもも守られないということ。
◇あなたの命と家族は、みんなの命と家族
なんでみんなの子どもなのか? 「なんのために学校行かなくてはいけないの?」と子どもに聞かれたらどう答えますか。 僕は意味を伝えます。全ての世の中のものには意味がある。電車が走っている、 野菜が売られている、政治が行 われている……全てがたどりつく意味は、「命を守るため」です。 その命って何だ? もし自分が一人で生まれてきて、一人で育ったのだったら勝手にすればいいけれど、お父ちゃん、お母ちゃんがいたから君は生まれてきた。その前には戦争や災害があったけれど、みんなで命がけでつないできた命。
「うちの家族のことや!あんたには関係ない!」という言葉こそ、何にも気づけていない人間の言葉。たくさんの陰の存在、“お陰様さんたち”が、哺乳瓶を作り、あなたの住んでるマンションを建てた。雨の中水道管をつなぐ工事現場の人がいて、命を削っている警察、お医者さん、政治家、教師、僧侶、弁護士、漁師、農家、技術者、ラーメン屋さん……名も知らない多くの“お陰様さんたち”の支えの土台の上で、子育てをしているということに気づけていない人ですよね。だから、逆に言えば、苦しいことや、困ったことがあれば、遠慮なく、「誰か助けて~」と言う権利があるんです! それが「人権」なんです!
だから親は子どもにこう伝えてください。 あなたの命はあなただけのものじゃなくて、みんなの大切な命。学校でいじめがあってつらかったり、苦しかったりした時は、「 誰か助けてよ」「いじめてくるあいつも、何とかしてよ」と言う権利があるんだよ!と。
◇電話相談では「心の現場検証」
僕はラジオの電話相談でアドバイスをしたことは一回もない。「 どうしたの?」「つらいの?」と、子どもの気持ちにしっかりと耳を傾ける。 心の現場検証 と呼んでます。 先入観なしに非常にフラットな気持ちで聴かなければならない。 「助けて」と言いながら、実はいじめている側だったということもある。
子どもとのコミュニケーションの極意は三つ。まず一つ目は、「聴く」。 アドバイスしよ うとしたり、質問して「聞こう」としたり、誘導しようと言葉をさえぎってはいけない。
二つ目は、「確認」。すぐ分かったつもりにならない。 子どもが話す言葉はあいまいだっ たり、間違っていたりするかもしれないから、聴いた後は必ず確認という作業が必要 だ。つまり「それはこういうこと?」 と自分の理解が正しいかを子どもに確認する。すると子どもは本当に自分のことを分かろうとしてくれていると感じてくる。
三つ目は「同調」すること。 本当に共感することは難しいかもしれないが、同調はできる。「君は小学生だからそう思っちゃうよね」「それは苦しいよね、 つらいよね」 と子どもの心に寄り添うということ。
子どもとのコミュニケーションで気をつけるべきは、 大人の中にある“昭和のIC(愛しい)チップ”。①人の話を聞かない ②すぐ感情的になる ③自分が正しいと思う④訳もなく上から目線 ⑤すぐ悪者を探す ⑥誰かと比べたがるーー。これらのチップは昭和では通じたかもしれないが、今の子どもには合いません。
◇子どもに解決策を考えてもらう
そのうえで、 子ども自身にどう解決するかのプロセスを考えてもらう。僕は、 緊急の場合以外は、親がすぐ学校に乗り込むのはもったいないと思う。 子どもにサバ イバル力(生きる力)を訓練させる大きなチャンスでもあるからだ。 相談では子どもがもし学校に戻りたいと言うなら、 それをゴールにして今日からできることを一緒に探そうというところからスタートする。こんな感じで……。
レモンさん「そのために今からできることのメニューってどんなのがあると思う」
子ども「メニューって?」
レモンさん「今いじめられていることを相談できる身近な人、話せる人、 誰かいない かなあ?」
子ども「いない。担任は絶対無理。言ったけど何もしてくれない」
レモンさん「そうか、保健室の先生は?」
子ども「保健室は行きたいけど、いつも混んでいる。 上級生ばっかり。入りにくい」
レモンさん「校長先生は?」
子ども「しゃべったことない。怖そう」。
レモンさん「副校長は?」
子ども「……話せそう」
レモンさん「じゃあメニューに入る?」「じゃあ他に……」
こんな感じで自分の中からいくつかのメニューを見つけてもらう。そして最後に僕はこう言う。「 レモンさんから一つ。これはメニューに入るかな」と尋ねて、「 レモンさんが今から新幹線に乗って君の学校に行って、いじめをストップさせるよう先生と話し合う」と提案する。 すると子どもは初めて「うふっ」と笑って、「それはメニューに入らない」。このパターンは、本当に多い。その「うふっ」 を聞いた時に、ひとまず大丈夫だと感じる。
子どもに限らず人間には、誰か寄り添ってくれる存在が見つかると、安心が生まれる。その「安心」は、いずれ「勇気」を連れてくる。それがその子どもの「自信」にもつながっていけば、いじめの経験は「生きる力」にも変えられる。そのお手伝いは、これまで苦労してこられた先輩たちからの、“時代のバトン”を受け取った、今の“We are シンセキ!”の我々大人たち全員の責任だとレモンさんは思う。
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