ソーシャルアクションラボ

2018.08.23

みんなの力でいじめをなくそう 荻上チキさんに聞く

 30年前から一向に減ることのない「いじめ」に業を煮やした。荻上さんはジャーナリスト、弁護士などさまざまな分野の専門家に声をかけ、いじめをなくすためのサイト「ストップいじめ!ナビ」を2012年10月にスタートさせた。感情論にふりまわされず、データに基づいた解決方法、こどもの目線にたった具体的対策などを次々と提案している。「いじめはどうせなくならない」と悲観するのではなく学校、保護者、行政、メディアが協力しあうことで「いじめは必ず減る、減らさなければならない」と語る。今すぐ役立つ対処法からいじめの裏に潜む「ブラック校則」などについて話を聞いた。【聞き手・小川節子】

・統計が教える いじめスポット、時期、年代
・傍観者にならず通報 シェルター スイッチャーになろう
・いじめの背景にはブラック校則がある

おぎうえ・ちき 1981年生まれ。評論家、編集者。特定非営利活動法人「ストップいじめ!ナビ」代表理事。ネット上の問題、いじめ、メディア論を専門としている。
著書に「ネットいじめ」(PHP新書)、「社会的な身体」(講談社現代新書)、「いじめの直し方」(共著、朝日新聞出版)など多数。

◇「ストップいじめ!ナビ」の役割

ーーそもそも「ストップいじめ!ナビ」を始めたきっかけは?
荻上 2011年に大津市で起きた「大津いじめ自殺事件」の報道のあり方に疑問を覚えました。いじめの悲惨さ、学校、教師側の隠蔽(いんぺい)体質がセンセーショナルに取りあげられ、いじめを解決するための具体的な対策を提示するような報道は行われていませんでした。いじめが社会問題として取りあげられた2、30年前からこの状況は変わっていません。メディアを批判するだけでなく、不足している視点などを提言していきたいと思いました。
 また、この事件をきっかけに13年に「いじめ防止対策推進法」が成立、施行されましたが、この法律を少しでも実効性のあるものにするためにも、さまざまな提言をしていかなければならないとも感じていました。
ーーこのサイトを6年間続けてきて、成果と今後の課題は?
荻上 このサイトではいじめに関するさまざまなデータ、事例集のほか関連相談機関へのアクセス方法も掲載されています。独自調査も行い現場の教師、マスコミの人たちと勉強会を開き情報を共有することはとても大切だと思っています。
 また、弁護士チームが中学校、高校などに出張授業も行っています。道徳、社会的な通念とは別に法律、国はいじめをどう考えているのかを伝える意義も大きいと思います。学校現場も「いじめ防止対策推進法」をうけ、いじめを減らすためにどうしたらいいか、組織、教師の過重労働、理不尽な生徒指導などといったシステム全体の問題として考えていこうとする動きも出てきています。

ーー自分のこどもがいじめにあっているかどうか、どのようにみつけたらいいでしょうか。
荻上 親はとにかく、こどもの状態を見まもるしかありません。信頼関係を築き、話しやすい環境を作ることが大切です。サイト上には「家庭における『いじめ発見」チェックシート』(別表)を載せてあります。ただ個々人、個別のケースによって異なるので、一応の目安としてください。
 こどもたちには、いじめられたことをきちんとメモ、記録しておくことをすすめます。「いつ、どこで、だれに、なにをされて、どんな気持ちになったか」を記録します。いざという時の証拠になりますし、記録をつけておけば自分の気持ちを客観的にみつめ、記憶を整理することもできます。記録があることで対策もたてやすくなります。

◇家庭における「いじめ発見」チェックシート(「ストップいじめ!ナビ」のホームページより)

《言動・態度・情緒》

①学校へ行きたがらない。「転校したい」「学校をやめたい」という
②1人で登校したり遠回りして帰ってくる
③イライラ、おどおどして落ち着きがなくなる
④風呂に入りたがらない、裸になるのをいやがる
⑤部屋に閉じこもりがちでため息、涙をながしたりする
⑥言葉遣いが乱暴になり家族に反抗したり八つ当たりしたりする
⑦学校のことを話したがらない。友だちのことを聞かれると怒りっぽくなる
⑧いじめられている友だちの話、学級の不平・不満を口にするようになる
⑨すぐに謝るようになる
⑩無理に明るく振る舞おうとする
⑪外に出たがらない
⑫電話に敏感になる。友だちからの電話に丁寧な口調で応える
⑬「どうせ自分はだめだ」と自己否定的な言動が見られ現実逃避、死について関心をもつ
《服装・身体》
⑭朝、腹痛や頭痛など体の具合が悪いと訴える。トイレからなかなか出てこなくなる
⑮衣服の汚れが見られたり、よくけがをしたりするようになる
⑯寝付きが悪かったり眠れなかったりする日が続く
《持ち物・金品》
⑰学用品や所持品、教科書をなくしたり落書きされたり、壊されたりする
⑱家庭から物品やお金を持ち出したり余分な金品を要求したりする
《その他》
⑲親しい友だちが家に来なくなり、見かけない子がよく訪ねてくるようになる
⑳親の学校への出入りを嫌う

◇統計データからみえるいじめの事実

ーーデータを共有し具体的な対策をたてることは必要なことですね。
荻上 いじめに関するデータ、論文、研究をいろいろな現場に届け共有することはとても大切です。自分たちでもリサーチし、これまで伝えられてきた情報の誤りなどを指摘してきました。政策、対策にはしっかりした根拠、検証が必要です。今起きているいじめの実態をしっかり把握し、対策につなげていかなければなりません。
ーー具体的な実態としてなにかありますか。
荻上 いじめに関する統計データからいくつかはっきり言えることがあります。

①いじめは急増も急減もしていない。常に一定の数で存在している
②いじめは小学校高学年から中学2年生までの間に特に多くなっている
③いじめの発生しやすい場所(いじめスポット)は「教室」「廊下、階段」などで、教師の目の届かない休み時間、昼休み、登下校中に多くなる
④いじめは「5~6月」「10~11月」の時期に多くなる。内閣府の「自殺対策白書」によると18歳以下の子どもたちの過去42年間に一番自殺の多い日は「9月1日」(131人)続いて「4月11日」(99人)「4月8日」(95人)「9月2日」(94人)「8月31日」(92人)となっている。

ーー子ども一人一人がすぐにできる対策としては?
荻上 サイト上に「生徒手帳プロジェクト」があります。教師、学校がダウンロードし、生徒に渡し生徒手帳に張ってもらいます。いじめ防止宣言、いじめ、いやがらせにあった時の相談先の電話番号が書かれています。教師はこのとき、生徒、自分自身に対し「どんないじめからも生徒を守る」という約束をすることにもなります。いざという時に相談先が身近にあると心強いと思います。
ーー親としてできることは?
荻上 子どもは自分から親に話したがりません。子どもの様子を見まもるしかありません。また、家庭が子どもにとって居心地のいい場所であること、日ごろから信頼関係を築いていることも大切です。「学校の外にも世界がある」「いじめなど理不尽なことから逃げていいんだよ」というメッセージを送ることも必要。教師との連絡が密にとれるようなシステムも日ごろから作っておいてください。 また、人からされていやなことを「レッドカード」「イエローカード」と自分の中で分類しておくことも必要です。
ーー子ども同士でできることは?
荻上 いじめをみたら、生徒は自分たちのクラスの問題として解決するようにこころがけてほしい。いじめそのものの仲介は難しいかもしれないが、「通報」「シェルター」「スイッチャー」のどれかの介入をしてほしい。
 「通報」はいじめの現場を見た時、教師、親に伝えること。「シェルター」はいじめられた子の避難所になってほしい。いつもと同じように接してあげ、帰りに声がけをし一緒に帰るようにするなど。見て見ぬふりをしないことです。「スイッチャー」はその場の雰囲気、コミュニケーションのスイッチを切り替え空気を変えることです。いじめの空気感を別の話題にふることだけでも人は救われます。

◇ブラック校則

ーー過度な校則がいじめの背景にあるという声もありますが…。
荻上 授業の5分前に席に着いていなければならない、無駄口の禁止、スカートの長さが決められているなどといった行き過ぎた生活指導(ブラック校則)は、こどもにストレスを与え、いじめを生みやすい環境を作ることは知られています。今年2月に「問題校則(いわゆるブラック校則)および不適切指導に関する調査」を独自に行いました。実態を把握することで、こどもの権利を保つ豊かな教育環境をつくるために役立てていこうと考えています。
ーー調査結果から見えてきたことは?
荻上 よく問題になる「黒髪ストレート」ですが、全体の6、7割程度しかいません。「日本人なら黒髪」というのは一つの偏見です。にもかかわらず、茶色の髪の人は中学時代で1割、高校時代で2割が髪染め指導を受けていました。校則は各年代でトレンドがあり「スカートの長さ指定」「下着の色指定」「眉毛手入れ禁止」「整髪料禁止」などは近年、増加傾向にあります。日焼け止め、リップクリーム禁止も増えています。一般的に高校よりも中学の方が理不尽な指導を受けやすかった。「中学生らしく」という過剰なコントロールが全国的に根強い。校則の厳しさといじめ体験には強い関係があることがわかりました。
ーー教育現場を変えていくには、どうしたらいいでしょうか。
荻上 生徒の権利を侵すような理不尽な校則は廃止し、教室、学校がのびのびと楽しい場所になることが必要不可欠です。そのために教師自身がいまある校則を見直してほしいと思います。この調査結果を文部科学省に持って行こうと思っています。
 また、教師が生徒一人一人とコミュニケーションをとれるようにすることも大切です。この意味からも教師の加重労働が問題になります。教師がオーバーワークで睡眠時間も削られている状態だとしたら、自身がいらいらして適切な生徒指導はしにくくなります。教育関係の予算を増やし、教師の人数を増やすことは急務だと思います。

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