ソーシャルアクションラボ

2018.08.23

尾木直樹インタビュー「いじめ被害の兆候は、ここに表れる」

  • 鬼門「中2」の全クラスを年間通じて大学生、高校生が見張る
  • 少し年上の若者は中学生の世界を大人に通訳できる
  • 中2の2学期にクラス替え。1学期からのいじめ関係を断つ


すわ・てつし 1969年、名古屋市生まれ。2007年、「アサッテの人」で群像新人文学賞、芥川賞を受賞。小説に「りすん」「ロンバルディア遠景」「岩塩の女王」、エッセー集に「うたかたの日々」など。近著に「紋章と時間 諏訪哲史文学芸術論集」。名古屋市在住。

◇クラス替えでいじめグループ解体


 その後、中学3年でリセットがありました。クラス替えがあって、クラスメートが全く別の顔ぶれになったのです。不良のいじめグループは全員が別々のクラスになり、解体されました。新たなクラスの始まりはおっかなびっくりでしたが、ともかくも主要メンバーはいなくなった。担任は、他の学校から転任してきた全く知らない先生になりました。担任の先生に対しては、自分の恥を知らない人として関係をスタートできた。先生がどんどん代わっていくのも大事なんですよ。ぼくは1学期のうちは中2のトラウマを引きずっていましたが、やがて受験勉強の態勢に変わっていきました。

 毎日が授業参観だったらいじめは起きません。クラスに同じような世代の見張り役が1人いると、仲間外れにされている子はすぐ気づかれて、いじめはやりにくくなるでしょう。教育実習生がいたらいじめはやりにくいか、いじめっ子に聞いてみたいです。いじめによる自殺者をなくすには、社会を巻き込むことが必要です。そこで提案します。

<提案します>授業の一環として若者を週替わりで配置

 全国の中学2年生の全クラスに、週替わりで教職課程の大学生か、近くの高校生を見張り役として配置するのです。中学2年の1年間は連日、クラスメートでも先生でもない若者が、登校から下校まで、教室の後ろでずっと見ている体制を作ります。見てやるぞ、という人が最後列にいたらいじめはやりにくい。高校生には自分の母校以外の中学校に入ってもらい、なれ合いを防ぎます。本当は中学校の3年間、常時見張り役を配置したいですが、まず中学2年だけ実験的にやってみる。「人の命を助けるために」と募集し、大学でも高校でも見張り役の1週間を正規の単位として認めることが前提です。

◇リポートで中学校に対処を促す

 授業時間はもちろん、教師のいない昼休みや掃除時間、下校時間にクラスを見張ってもらう。1週間が終わったら学生にリポートを書かせ、いじめの萌芽(ほうが)を報告してもらいます。リポートは在籍する大学か高校で集めて、市民団体などの第三者に提出します。毎週同じ子の様子が変だと報告されていたら、中学校は対処せざるを得ません。

 確かに校外までは見張れません。公立の中学校は生徒の生活圏が同じなので、下校の際に待ち伏せされて「5000円持って夕方、○○池に来い」と恐喝されることは防げない。でも、そんな恐喝に至らないように状況を変えることは、見張り役の学生配置でできると思います。

 見張り役をしたくない子はやらなくていい。集まらなければどんどん妥協し、週3日でもいい。若者に入ってもらうことが無理なら、シルバー世代に入ってもらう。中学生だけが恩恵を享受するわけではなく、見張り役にも得るものがあるはずです。大人は子どもの恐ろしさを知ることができるし、高校生なら自分が中学生だった時には見えていなかった人間の最もむきだしの部分を見て、他者というものを知るでしょう。

<提案します>何度でも環境をリセット

 それから、環境のリセットは何度でもやった方がいい。同じ顔ぶれの人間と延々時間を共にするとなれ合いになる。いじめる側といじめられる側のセットから解き放つために、中学2年の2学期にクラス替えをしろと言いたいです。夏休みが明ける9月を前にして、「あの地獄の日々がまた来るのか」と絶望して子どもは死ぬのです。先生にとっては面倒なことですが、クラスのメンバーを入れ替えれば、いじめられている生徒が死ぬことは救えます。3学期は短いので、少なくとも9月が鬼門です。

◇「死にたい」は「私を見て」

 ぼくが分からないのは、会員制交流サイト(SNS)というインターネットの最先端のトポス(場)で行われるいじめです。携帯電話もスマートフォンも持ちませんが、LINEやツイッターを使うためのスマホの中に、学生たちの言うに言えない人間関係があるのは分かります。ネット上の恐喝もあるでしょう。大人には見えないネットでのいじめを防ぐには、日々更新されるネットのツールに精通している高校生、大学生を、毎年新たに見張り役に加えることが大事です。SNSに書き込まれた「死にたい」は、文字通りの「I want to die」ではなく、「Look at me」(私を見て)の意味です。アニメ文化、スマホ文化を解し、中学生が何をされるといやなのか、少し年上の世代は理解し、通訳ができます。その世代を巻き込むことが欠かせません。

<提案します>義務教育期間は休んでも卒業させる

 深刻ないじめの渦中にある子どもに対して、今すぐ何ができるのか。死ぬことを回避するのが急務です。その子は学校に行かなくていい。学年の最後の日まで休んでも、義務教育の間は進級を認める。「学校に来なくても大丈夫だよ」と大人が言うだけでは足りません。クラス替えがある時まで休んでいい。もっと休んだとしても義務教育の9年間が過ぎたら、学業を修了したとして卒業させる。休んでいる間は当分自宅に引きこもるでしょうが、そのうちに何かのコミュニティーに入らせる。けん玉クラブでも、図書館でも、何でもいい。「学校がすべてではない」と知ってもらうことが重要です。

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