ソーシャルアクションラボ

2018.08.23

「自分の子を、いじめの加害者にしない」 フランス在住ライター髙崎順子さん

「いじめる人間がいなくなれば、いじめはなくなる」で、長男がいじめ加害者になった経験などををつづった在仏ライターの髙崎順子さんが、フランスのいじめ対策などについて説明し、呼びかける。

                                                                                 写真/村松史郎

たかさき・じゅんこ 1974(昭和49)年東京都生まれ。東京大学文学部卒業後、出版社に勤務。2000年渡仏し、パリ第4大学ソルボンヌ等で仏語を学ぶ。ライターとしてフランス文化に関する取材・執筆の他、各種コーディネートに携わる。著書に「フランスはどう少子化を克服したか」(新潮社)など。

◇「校内ハラスメント」は、川上から予防する

 フランスもバラ色の天国ではないので、学校でのいじめは存在します。2015年のフランス全国調査によると、小学校〜高校で「嫌がらせ、暴言、暴力を繰り返し受けた」と答えた生徒は約70万人。これは日本のような「学校がいじめと認定した数」(約32万件、2017年文部科学省発表数)ではなく、全国の校長が報告した「生徒からの回答」の実数です。

 いじめ問題へ国が本腰を入れて取り組み始めたのは、フランソワ・オランド前大統領政権の任期中。「Non au harcelement ハラスメントにNoを」のスローガンのもと、包括的な対策計画が進められています。

 日本と比較し、フランスの取り組みで特徴的なのが、「いじめ」という特殊語がないこと。日本で「いじめ」とされる嫌がらせや暴力行為は「校内ハラスメント」と定義され、セクハラやモラハラなど一般社会のハラスメントと同じ語彙(ごい)で語られています。

 次に特徴的なのが、取り組みが「被害者保護」と「加害者抑制」の2本柱で行われていることでしょう。この点は国家教育大臣ジャン=ミッシェル・ブランケの言葉に表れています。

 「この許されざるべき悪習と戦うため、大人たちが学校や関連機関と連携しなければなりません。最初の小さなサインの段階から、被害者を保護するために。そしてハラスメントを行う人物を妨げるために」

(出典:Non au Harcelement, 2017年11月プレスリリースより筆者訳。国家教育省、原典https://www.nonauharcelement.education.gouv.fr

 「他者の尊重は、学校が生徒に伝えるべき価値観の中心であります。心穏やかに学ぶため、学校は各生徒が自信を持っていられる場所でなくてはならない。一部の生徒が級友の弱さにつけ込み、彼らをひるませたりおとしめたりすることは、許してはならないのです」

(出典:Non au Harcelement, 2018年3月プレスリリースより筆者訳。同上国家教育省リンクに原典あり)

 具体的なアクションの一つに、校内ハラスメント相談の全国無料電話ホットラインがあります。親でも学校関係者でもないハラスメント問題専門家と、生徒が直接、話せる仕組みです。相談内容の深刻度によって、学校やソーシャルワーカーと連携し、具体的な改善計画につなげることも。2016年10月からの1年間で約5万5000件の相談があり、うち約1万5000件が、学校などへの情報共有から現場対策へとつなげられました。

 また加害者抑制に関しては、「校内ハラスメント専門家ネットワーク」を構築。約310人の専門家が全国に配置され、学校関係者への意識づけや研修、実際のハラスメントケースでの共同対応を行っています。前述のホットラインへの相談は、彼ら経由で学校などへ伝えられます。

 これらのアクションに通底するのが、フランスの児童福祉を貫く「予防原則」の考え方です。感染病や事故などと同じように、いじめ対策の原則にも「川上からの予防」が掲げられています。そこで重要視されているのが、「ハラスメントを誘発しやすい土壌を、早い段階で探知すること」。科学的知見から考案された「校内風土を測定するアンケート」を国が採用し、年に1回任意の学校で実施、最新の状況をデータで把握しています。

 いじめは「起こさない」こと。起こってしまった場合は、被害者を保護しつつ、加害者を抑制すること。被害者を出さないために、加害者を作らない取り組みが、フランスのいじめ対策の軸にあるのです。

◇自分の子どもを加害者にしない

 日本での学生時代、そしてフランスでの親としての経験を経て、日本における「いじめ」の扱いを見ていると、歯がゆい気持ちがします。日本のいじめは被害者にばかり原因と改善を求め、加害者への対策が十分に語られていないように感じるからです。

 このソーシャルアクションラボでも、「子どもをいじめから守る」とのタイトルから、まず読者が想定するのは「いじめられないようにする」ことではないでしょうか? 「自分の子を、いじめの加害者にしない」という逆ベクトルの考え方を、このサイトを見るどれだけの方がしているでしょう。尾木直樹先生が既出記事で同様の指摘をされていますので、ぜひ今後、このラボでも「加害者対策」を考えるアクションをご検討いただきたい。どんな人も、「いじめ加害者の親」になる可能性があるのです。

  「いじめる人間がいなくなれば、いじめはなくなる」。このシンプルで揺るがない事実を、いじめ対策の軸に据えることで、いじめをなくす本気の取り組みがなされることを、願ってやみません。

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