ソーシャルアクションラボ

2018.08.23

尾木直樹インタビュー③「一斉主義がいじめの根本原因」

いじめ問題は必ず克服できる。今こそ克服を目指して一人ひとりが動く時だ――こう訴え続けている尾木ママこと尾木直樹・法政大特任教授に、今回はどうしたらいじめが起こらないようにできるかを聞いた。【聞き手・谷道健太】

・人をいじめる原因は基本的にストレスの発散。我が子が「いじめの加害者にならないか」の心配を

・日本の学校の一斉主義や同調圧力が子どもにストレスを与える

・いじめを傍観する子は多いのに仲裁する子が少ないことが、深刻化する背景

◇小学4年から中学3年までにいじめの被害者、加害者になった経験がある児童生徒は90%

――いじめ被害を苦に自殺する子どもが後を絶ちません。そこに至るまで何とかならなかったのかと……。

尾木ママ 世界中でこれだけいじめが蔓延(まんえん)している国は日本だけです。国立教育政策研究所は小学4年から中学3年までの児童生徒約4000人を対象に、「あなたは今、いじめを受けていますか」などと聞くアンケート調査を1998年度から続け、3年ごとに「いじめ追跡調査」という報告書にまとめています。小学4年から中学3年までの6年間に、いじめの被害者、加害者になった経験がある児童生徒の割合は、2015年度はいずれも約90%。つまり、ほとんどの子がいじめの被害も加害も両方経験しているのです。

 なぜでしょう。昔は、いじめをする側はある程度固定化されていました。ところが今は、いつでもどこでも誰もが加害者になり被害者になるのです。相互関係性の中でたまたま優位に立った一方の側がいじめを行うといったパワーゲームの側面があります。子どもからすれば、常に緊張と不安を強いられることになる。だから「あなたが身の危険を感じるなら、そんな学校には行ってはいけない」というのが僕の考えです。不登校、大賛成です。転校も一つの方法だと思います。2015年の夏休み明け前に、神奈川県鎌倉市の中央図書館が「学校が始まるのが死ぬほどつらい子は、図書館へいらっしゃい」とツイッターで呼び掛け、大きな反響を呼びました。最近は多様なフリースクールが全国に数多くありますし、地域の居場所としては、図書館や児童館、不登校やいじめで傷ついた子どもたちを支えるボランティア団体もたくさんあります。視野を広げて、学校以外のところに居場所を作りましょう。

 どんなにつらくても苦しくても、命があればなんとかなります。命が失われたら本当に取り返しがつきません。そのことを改めて強く感じたのは、僕が法政大で受け持っていたゼミの学生を事故で4人亡くしてからです(長野県軽井沢町の国道18号で2016年1月、大型バスが道路脇に転落して乗員乗客15人が死亡した)。大けがして手術をした子もいますが、どんなに失ったものが大きくても命があれば生きていけます。でも、命をなくしてしまったら取り返しがつかない。本当に取り返しがつかないんです。だから僕はいじめでつらい思いをしている子には「そんな危険なところに行くな」と伝えたい。元教師の僕が言うのも変かもしれませんが、学校なんて行かなくても何とかなります。命を懸けてまで行くようなところではありません。

――いじめをなくすことはできますか。

尾木ママ いじめが0になることはありません。人をいじめる原因は基本的にストレスの発散です。これは多くの調査研究の結果から証明されています。例えば、親が日ごろから高圧的で一方的に子どもと接している。あるいは、今の学力では無理なレベルなのに「上位校に進学しなきゃダメ」「うちの家系はみな慶応や早稲田に入ったのだから、あなたもそこを目指さないと」などとプレッシャーをかける。実は進学校ほど、陰湿で残忍ないじめが多いといわれています。現実にストレスを抱えている子はいくらでもいるのだから、いじめはなくなりません。

 僕は保護者に講演会で「子どもにプレッシャーを加えていじめっ子にしないでください」と言い続けています。いじめっ子が生まれなければいじめは起きませんから、「いじめの加害者にしない子育て」をしてくださいとお願いしています。ところが、「わが子がいじめられている」と相談する親は多いですが、「わが子がいじめをしているかも」と相談する親はめったにいません。僕はいじめ問題に35年以上関わってきましたが、加害者側からの相談を受けたのはたった2件だけです。1件は電話での相談、もう1件は講演会の後に残っていた親から「実はうちの子が……」と相談を受けました。「自分の子どもがいじめの加害者にならないか」と心配する親は極めて少ないのです。これは日本の親の大きな特徴です。

◇タブレット端末は個別教育や個別学習の方向で活用を

――子どものストレス以外に、いじめを引き起こす要因はありますか。

尾木ママ 学校にいじめが多いか少ないかは、学校に「いじめの要素」があるかないかに関係します。例えば、生まれつき地毛が茶色の生徒に染色を強要したり、「地毛証明書」を提出させるような学校。「地毛証明書」は東京都立高校の60%が提出を要求しています。「ブラック校則」や「ブラック部活」が問題になっている学校も「いじめの要素」が多い。根底にある日本の学校の一斉主義や同調圧力は子どもにストレスを与えるので、いじめを引き起こします。

――みんなが同時に同じことをする一斉主義はなぜいじめの要素なのですか。

尾木 同じページを開いて「ハイ、順番に」と朗読させ、リーディングをさせると、上手な子と下手な子の落差がクラスのみんなに分かってしまう。下手な子がいじめられる原因を作るのです。

 韓国に視察に行ったことがありますが、数学の授業でタブレット端末を使って授業をしていました。一見、日本と同じ一斉授業かと思ったのですが、驚いたことに生徒が見ている画面がみな違う。「因数分解をやる」という大きなテーマがあり、授業の冒頭で先生が説明をしますが、「それじゃ、練習をやってみよう」となると、生徒が自分で初級、中級、応用的な問題を自ら選んでやっている。

 日本の学校でタブレット端末を使うのは、一斉授業の効率をさらに上げるためという側面もまだまだ小さくないようです。国もICT(情報通信技術)活用に力を入れ、2020年までに1人1台の情報端末を整備するなどの目標も示されていますが、一斉授業のためだけでなく、個別教育や個別学習、双方向化など多様な学びのために活用していきたいですね。

◇学校づくりに子どもが意見を表明し、主体的に参画していく仕組みを

――一斉主義は教師にとっての効率のよさではないでしょうか。

尾木ママ そもそも教育の基本は、一斉主義とは正反対の個別教育であり、個別学習なのです。例えば、「世界一子どもが幸福な国」オランダでは、1時間目の授業に国語を学んでいる子がいれば、理科をやっている子もいるし本を読んでいる子もいる。絵を描いている子、パソコンをやっている子、それぞれです。時間割を決めるのは子ども自身。すべてが「自己決定」「自己責任」なのです。一斉に同じことを強制されたり、他の子と競争させられたりしないので、子どものストレスが少ない。クラスも固定化していないため、さまざまな人と関係を結ぶことができます。時間のある親が授業の手伝いをしていたり、地域の人も学校に気軽に出入りしています。日本の教室や学校のように、閉ざされて逃げ場のない密接な関係性が生まれにくいため、結果としていじめも起きにくい環境となっているのです。

 オランダは「ワークシェアリング」という考えで、週3日しか働かない人も多いのに、時間単位当たりの労働生産性は日本の1.5倍もあります。小学校に入ることのできる4歳からあらゆることを自分で決定し、自分で決定したことについては責任を持ってやるという教育を受け続けるから、このような差が出るのだと思います。

 日本にも一斉主義的でない学校はあります。障害のある子もない子も一緒に学んでいる大阪市立大空小学校(住吉区)の取り組みは「みんなの学校」(真鍋俊永監督、2015年)というドキュメンタリー映画になりました。

★2006年に開校した大空小は特別支援対象の子も区別せず、同じ教室で学ぶ独自の取り組みを続けている。地域に開かれた点も独特だ。「時間があれば『インターホン』を鳴らし、学校に入ってください。そして、授業の中に入っていただき、子どもと学び合ってください。大人が学ぶ姿を子どもが見ることは、子どもの大きな力になります」と同小サイトは記している。

(大空小=http://swa.city-osaka.ed.jp/swas/index.php?id=e731673

(映画「みんなの学校」=http://minna-movie.jp/school.php

――そのような学校でいじめが起きにくいのはなぜでしょう。

尾木ママ SNSを使ったいじめは先生や親はなかなか見抜けませんが、子どもたちにはすぐ分かります。なぜかというと、子どもたちは1時間目から5、6時間目まで長時間の学校生活を過ごし、一緒に給食を食べたりしているからです。だから「あれ? あの3人、いつも仲良かったのに、どうして今日はあいつ一人で給食を食べているんだろう」と、その日のうちに異変を察知できるのです。

 日本のいじめは、いじめを傍観する子は多いのに仲裁する子が少ないことが、深刻化する背景の一つと考えられます。クラスが固定され、授業もクラス単位で受けるような方法では、子どもの人間関係も固定化され、閉鎖的になるため、子どもは声をあげにくい。

 そのような弊害を生む一斉主義を積極的に改めた学校では、いじめに気付いた子が「やめようよ」「何があったの?」と、傍観するのではなく仲裁に入っていける。いじめっ子に注意しても「なんだよ。今度はお前をいじめるぞ」とならずに、その場ですぐに「ごめん」と謝罪して終わります。いじめ防止には、いじめを生まない環境づくりが大切なのです。

――子どもたちが自主性を持つ教育が重要ですね。

尾木ママ 日本には子ども参加の学校が本当に少ないのは残念です。学校づくりに子どもが意見を表明し、主体的に参画していく仕組みがあるような学校だと、子どもは自ら学校をより良いものに創り上げる当事者という自覚や責任感を持てます。そのことが結果的に、いじめが起きても自分たちで解決する力につながるのです。いじめをなくすには、今の一斉主義、競争主義で本当にいいのか、学校、教育の在り方そのものを考え直すことが必要です。

<今からできる三つのアクション>

①子どもが危険を感じるような学校には、登校させない

②わが子をいじめの加害者にしない

③管理主義ではなく、子どもの自主性を大切にする学校を探す

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