ソーシャルアクションラボ

2018.08.23

尾木直樹インタビュー②「いじめはスマホ問題です」

 いじめをどう見つけるかという問いかけに「90%はスマートフォンの中で起きている」と警告した尾木ママこと尾木直樹・法政大特任教授。今回はスマホに焦点を当てていじめにどう対処するかを尾木ママに聞いた。【聞き手・谷道健太】

・ネットいじめ時代に何より大切なのは「SOSを出せる親子関係」
・「面と向かって言わないことは、スマホでメールしない」などのルールを
・子どもがスマホに依存しているようなら親子関係を見直そう

◇書き込み無視、強制退会…LINEで一番多いのは仲間外し

――ネット上でのいじめ。親はどうすればいいのでしょうか。

尾木ママ まずは、日ごろから何でも子どもが相談してくるような親子関係を築くことです。LINEなどのSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)を使ったいじめで多いのは仲間外しです。書き込みをしても無視される、グループから強制的に退会させられる。それをやられると子どもは友だちからの連絡が一切なくなるという孤立の恐怖を味わいます。また、少しでも既読や返信が遅れると「死んだんじゃね?」「死ねばいいのに」「さようなら」「消えろ」「バイバイ」などと短時間に複数人が連続してメッセージを送りつけて追いつめたりもします。いじめている相手は大抵同じ学校やクラスの子なので、LINEでいじめられると学校に行けなくなるばかりか、最悪の場合、自殺にまで追い込まれてしまいます。スマホが普及する前は、学校でいじめられても家に帰れば逃れられましたが、今はスマホがある限り、授業中でも昼食中でもトイレにいても、夜中であろうと24時間365日、いじめが続くのです。間をおかず連続で波状攻撃のように次々と、多数の誹謗(ひぼう)中傷のメッセージが届く。これではいじめられる子は、どこにいても何をしていても気の休まる時がありません。家の中すらもいじめから離れていられる安全な場所にはならないのです。

そういう不安や困ったことが出てきた時、子どもが親に話してさえくれれば、一緒に対策を考えることができます。何より子どもの不安を和らげることができる。頼りになる担任や先生がいるなら、「うちの子の様子でちょっと気になることがあって」と相談してみてもいいでしょう。「家でも気を付けてみますので、学校での様子も先生、注意してみていただけますか」とお願いして知らせてもらうようにすれば、学校での様子も分かり子どもの変化の理由が見えてくると思います。

子どもが親にSOSを出せる信頼関係を築くこと、それがネットいじめ時代には何よりも必要です。普段から、いばりちらすだけの親だと、子どもは相談してくれません。相談し合える関係があるなら、親はスマホや子どもが使うアプリを完璧に使いこなせなくても、恐れることはありません。ただ、そうは言っても、ネットいじめはどんどん複雑化・深刻化しています。子どもから教えてもらったりしながら、いずれはある程度は使いこなせるようになってほしいと思います。

◇米国のある母親が13歳の息子の誕生日プレゼントとしてスマホを渡す際に作った「18の約束」

――先生は「スマホに没頭する子どもの発達は確実に遅れてしまう」と危惧する発言をされるなど、スマホの危険性や害を認識するよう訴えておられますね。

尾木ママ 今、中学生のスマホ利用率が6割ぐらい、小学生が3割ぐらい。今、0歳で毎日スマホを触る子が2割もいるんですよ。

★内閣府の「青少年のインターネット利用環境実態調査」(2017年度速報値)によれば、スマホ利用率は高校生95.9%、中学生58.1%、小学生29.9%だった。(http://www8.cao.go.jp/youth/youth-harm/chousa/h29/net-jittai/pdf/sokuhou.pdf

★ベネッセ教育総合研究所の「第2回乳幼児の親子のメディア活用調査」(速報版、2017年)によると、0歳後半の乳児のうちスマホに接する頻度が「ほぼ毎日」は20%。

http://berd.benesse.jp/up_images/publicity/press_release20171016_2media.pdf

 私は子どものスマホの適切な使い方や危険性について、親や社会がもっと敏感になるべきだと思っています。子どもがこんなに自由にスマホを使えるのは、日本くらいですよ。通信会社も今、いろいろなアプリを開発したり、学校で講演や講習会を開催したりしてスマホの上手な使い方を教えています。親もぜひ積極的に学んでほしいですね。

――スマホは何歳から持たせていいのでしょうか。

尾木ママ 子どもの発達段階によって違いますが、僕は、子どもがスマホの危険性を理解し、親が子どもとルールを一緒に作れる年齢が適当だと思います。アメリカでは、あるお母さんが13歳の息子の誕生日プレゼントとしてスマホを渡す際に作った、「18の約束」という「契約書」が、大きな話題になりました。

★「18の約束」とは、13歳の息子を持つ母親のジャネル・ホフマンさんが作ったスマホ使用の「契約書」。米オンラインメディア・ハフィントンポストが2012年、その内容を報じると大反響を呼んだ。ホフマンさんは後に『iルール 健全なネット利用を心掛ける家族が知るべき自撮り、性的メッセージ、ゲーム、そして成長について』(未邦訳、2014年)という本を書いて出版した。ルールの一部は次のとおりだ。

〈1 このスマホはお母さんがお金を払って買った物だけど、君に貸してあげる〉

〈2 お母さんがいつもパスワードを知っているようにすること〉

〈7 スマホを使ってウソをついたり、人をだましたりしないこと。人を傷つけるやり取りに関わらないこと。良い友だちになれないなら、攻撃的なやり取りから一目散に立ち去ること〉

〈8 面と向かって言わないことは、スマホを使ってメッセージしたりメールしたり口にしないこと〉

〈18 君はきっと間違いを犯す。そうしたらスマホを取り上げるけれど、一緒に話し合ってやり直そう。お母さんは君の味方だから一緒に学ぼう〉(「ハフィントンポスト」2012年12月8日付 https://www.huffingtonpost.com/janell-burley-hofmann/iphone-contract-from-your-mom_b_2372493.html )

 ホフマンさんの著書(原題=iRules: What Every Tech-Healthy Family Needs to Know About Selfies, Sexting, Gaming, and Growing Up)はアマゾンで買える。(https://www.amazon.co.jp/iRules-Tech-Healthy-Selfies-Sexting-Growing/dp/1623363527

このお母さんはスマホを渡す前に、スマホの危険性や使い方についてずいぶん考えていますね。日本の親も“無条件”にスマホを与えるのではなく、スマホの使い方について子どもと一緒に「わが家のルール」を作るべきです。

また、アメリカでは14歳の少女が「リシンク(Rethink)」というアプリを開発しました。このアプリを経由すれば、子どもが誹謗中傷するような言葉を送信しようとすると、「リシンク(考え直して)」と警告が出るんです。

★2014年にリリースされた「リシンク」を開発したのはトリーシャ・プラブさん。フロリダ州に住む12歳の女の子がネット上のいじめを苦にして自殺したことをニュースで知り、アプリを作ったという。メールの文面に攻撃的な文言を検知すると、送信前に再考を促す。メール作成者の93%は送信を取りやめるという(プラブさんのウェブサイト http://www.trishaprabhu.com/ による)

◇親が一方的にスマホを禁止したり注意したりするだけではいじめは解決できない

――スマホの使い方に踏み込まないといじめには対処できないということですね。

尾木ママ ここまでスマホが普及している現代において、子どもにスマホを「持たせるな」「使わせるな」と言うのは非現実的です。親が一方的に禁止したり注意したりするだけでは、スマホを使ったいじめの問題は全く解決できません。むしろ効果的な対応を遅らせることになるだけです。必要なのは、子どもたちに浸透するSNSの影響や危険性を大人や社会がしっかりと認識し、子どもに「ネット・リテラシー」(ネットへの理解力)をしっかりと身につけさせる教育を学校でも家庭でもすることです。「ネット上にはこういう落とし穴、危険があるから対処をしよう」「SNSを使う時はこういうルールを作ろう」などと、“正しく怖がる”ことが大事ではないかと思います。

 つまり、スマホにのみ込まれるのではなく、どう使いこなしていくか、いかに上手な使い手になるかがポイントでしょう。ただし、「スマホの使い方」といったテクニカルな対処だけに終始しないでほしい。先に述べたように親への信頼感こそが、テクニカルな対処をする以前に必要だと思うのです。

 スマホが普及する前ですが、中・高生を対象に携帯電話の利用に関するアンケート調査をしたことがあります(尾木直樹「ウェブ汚染社会」<講談社+α新書、2007年>)。すると、携帯に依存している子は「親が嫌い」と答えた割合が非常に高く、携帯の利用時間などを上手にコントロールできている子は「親が好き」「親を信頼している」と答えた割合が圧倒的に高いという結果が出たのです。親は子どものスマホ利用をなかなか管理できませんが、子どもがスマホに依存しているようだったら、親子関係を見直し、子どもと信頼関係を築く努力をしてください。

<今からできる三つのアクション>

①日ごろから何でも子どもが相談してくるような親子関係を築く

②子どもと一緒にスマホの危険性について話し合い、「わが家のルール」を決める

③親もスマホの機能や子どもが使うアプリを使えるよう努力する

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